何かを求めてそこに立ち

 

いつしか僕ら、繋がっていた

 

 

 

吹き抜ける風に遠くを眺める。心地よい風が吹いた。
「いい天気ですね、十代目」
「うん」
学校の屋上に、ツナと獄寺の二人は並んで座っていた。
時は昼休み。山本がクラスメイトと話している間に、獄寺がツナを半ば強引に連れてきたのがここである。
屋上のドアに張ってある『立ち入り禁止』の文字(たぶんフェンスが壊れて危ないからだろう)に、最初はツナも入るのはやめようと思ったのだが
「眠くなってきちゃうねぇ」
「寝てもかまいませんよ。授業までに俺が起こします」
「え、そんなのいいよ、獄寺君」
「そうですか?」
立ち入り禁止でも少しくらいならいいかな、というのが、現在の心境だ。
お腹いっぱいで、ただのんびりする。
獄寺とそんな時間が過ごせるとは思ってもみなかった。
「今度山本も誘おうかな」
「え゛」
「ダメ?」
直後。
チュドンッ!!!!!
「「!!!??」」
そう遠くない場所から聞こえた爆発音に、二人は言うより早く反応していた。

 

 

 

 


たいせつなひと

 

 

 

 



ツナは驚いた。だが、獄寺はもっと驚いていた。
条件反射で隠し持ったダイナマイトに手をかけるほどに。
「え、嘘、何で!?」
爆発はこの校舎の裏側・・・つまるところここの真下・・・・であったらしい。その方向と獄寺とを交互に見て、ツナはわたくたしながら声を上げた。
この学校でこんな音を出せるのは、彼の隣に居る獄寺くらいのはずである。
だというのに、だ。爆発は彼の居ない所で起こっていて。
「十代目を狙う刺客かもしれません。消しましょう!」
「わーーーあーーーー!!!?ちょ、待って!!!そうだ、リボーンだよ!多分!!」
真面目な顔で物騒なことを言う獄寺に、すがりつくような形でツナは叫んだ。
「リボーンさんが・・・・・!?」
「そう!きっと誰かがリボーンを追い出そうとして、抵抗して爆破・・・ってうわ、ダメじゃん!!」
ツナが自分の想像に頭を抱える。
一方、納得したように頷いた獄寺がすっくと立ち上がる。
「え!?」
混乱するツナに、獄寺は絶望的なことを言ってくれた。
「何であろうとファミリーの出番ですね!刺客だったらぶっ潰して、リボーンさんだったら手伝います!!」
「手伝わないでーーーーーーー!!!!」
ツナの声が聞こえているのかいないのか、獄寺は現場へ直行した。


 

 

 


「あ、獄寺だ」
「!!・・・山本」
やたら冷静な声に、獄寺が振り向く。
「獄寺?」
「嘘、マジ!?」
「やっぱり・・・・・」
そして、クラスの男子たちが小声でつぶやく。
山本は先ほどまで自分のクラスにいた。クラスメイトと色々だべっていた所に、爆発音。
何だ何だとクラスメイトと一緒に見に来てみれば、軽く焼け焦げた校舎裏の地面、そこに獄寺がいたのである。
彼が凝視していた校舎の壁には、無数のひび割れと小さな穴。
半ば当たり前な感想を、山本はこぼした。
「何、これお前がやったの?」
「違う」
真っ向から否定されて、山本以下男子達は押し黙った。
獄寺が現場についたとき、既に人影は無かった。
それに、この壁の壊れ具合・・・・・
「俺はこんな安い火薬は使わねぇ」
「そこかよ」
山本が半眼でつっこむ。と同時に、数人の教師が駆け込んできた。
「はぁ・・はぁ・・な、なんじゃこりゃぁ!!?」
「校舎に穴を開けるとは・・・今度こそ責任追及させてもらうぞ、獄寺隼人!」
「あぁ!?」
退学騒ぎのときとは違う顔ぶれの教師である。
教師達は他の生徒数人と獄寺を見比べて、ためらうことなく獄寺に食って掛かった。それは、獄寺がいわゆる『前科持ち』であるが所以である。


 

 


その頃、ツナは三階の階段を下りているところだった。
屋上で数分、獄寺を止めるべきか、巻き込まれるから近づかないでおくべきか悩んで、結局止めたほうがいいと決心したのである。
転びそうになりながらも、最後の段を駆け下りる。
「獄寺君、まだ何もしてないよなぁ・・・」
人間爆撃機の動向が唐突に心配になって、窓から爆発現場をのぞいてみた。
「!!?」
眼下に広がる光景に目を丸くする。
獄寺が、教師に取り囲まれているではないか。

 

 



教師の一人が、威嚇する獄寺の腕をぐっと掴む。
「ざけんな、俺はやってねぇ・・・・離しやがれ!!!!」
そう言って腕を振りほどくが
「今までは証言だけで不確かだったが、まさか壁を壊すとは。前代未聞の事件だな、問題児」
「なっ・・・・・・!!」
また一人教師が現れて、獄寺の腕を後ろに回した。
そこに先の二人に押さえられ、獄寺は完全に抵抗ができなくなる。
さすがにまずいと思ったのか、山本が横槍を入れた。
「でも先生、そいつやってないって言ってたけど」
「やってないという証拠があるか?」
「やったという証拠も無いでしょう」
毅然として言う山本に、まずいだろ、とクラスメイトが顔色を悪くする。
「話にならんな。行くぞ、獄寺。校長室で話を聞こう」
「停学で済むと思うなよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
鼻息一つで山本をあしらって、教師は獄寺を歩かせた。
軽く抵抗してから、渋々獄寺が歩き出す。
「獄寺君・・・・・・」


 

 


二階の窓から、すべてを見守っただけで終わったツナが
どうしようもなく彼の名前を読んだ。
小さくなる彼の、上から見た背中。
獄寺君は何もやってません
今この瞬間、獄寺を犯人扱いする教師たちに心から訴えたかったのだが、声が出なかった。
教師たちが自分の言葉を信じるとは、とても思えなかったからだ。
「どうしよう・・・・・・・」
ぐるぐると回る頭で考える。結論に達するはずも無い。
が、その時。
「獄寺の野朗、普通に引っかかってたぜ」
「ざまぁみやがれ」
「これで退学かー。ついでに死んで欲しいんだけど」
耳に入ってきた声に、心臓が頭に響くほど激しく鳴った。
ゲラゲラという笑い声。聞き覚えがある。間違いない。いつだったか彼にからんだ、三年の不良達だ。
ツナは振り向かなかった。自分の横を通り過ぎる声に背を向けて、尚も窓の外を見る振りをする。
事態は思ったよりも深刻だ。
(どうにかしなきゃ・・・・・・・!!)
声が聞こえなくなると、ツナは血相を変えて走り出した。


 

 

 

 


「リボーン!どうしよう、獄寺君が痛たたたたたたたたた!!?」
「ちゃおっス。乱暴に開けるな。耳障りだ」
せわしなく叫ぶツナに、冷血ともいえたセリフが飛ぶ。叫んだのは消火栓の扉に仕掛けられたネズミ捕りのような罠のせいなのだが。
「今日は何だ?」
悠々と問う。
やっとネズミ捕りを手から外したツナが、切羽詰った表情でまくし立てた。
「獄寺君が校長室に連れて行かれちゃったんだよ!何かが爆発した音、リボーンも聞いただろ!?あれ、三年の不良が、獄寺君に罪をなすりつけ
ようとしてやったんだ!!あいつらきっと獄寺君にやられたの根に持ってて・・・!!!それをホントに先生が獄寺君が校舎に穴あけたって思ってる
んだ!!そりゃぁ獄寺君は今まで何度か爆破してたけどさ、このままじゃ退学にされそう!!獄寺君がヤバイんだよ!!」
ツナの息は上がっていた。ここまで走ってきたこともあるが、獄寺を退学させたくないという強い感情が、彼を焦らせているから、という方が大きい。
だが、リボーンの返答は相変わらず無感情だった。
「知ったことか」
「リボーン!?」
すがるような表情のツナを、リボーンは容赦なく突き放す。
「俺は殺し屋だぞ?何を期待している?その不良とやらを皆殺しにしてほしいのか?」
「違っ・・」
「じゃあ自分で何とかしろ。獄寺はお前の部下だろう。お前が助けてやれ」
「俺が・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・俺が獄寺君を助けるなんて無理に決まってるよ。
三年の不良たちの、あの、悪どい笑いを思い出す。
怖い。
近寄りたくない。
関わりたくない。
「そんなの、無理だよ」
情けないと分かっていながらも、言葉を吐き出す。

俺には、なんにも無い。
先生の信用も無いし、
一発逆転するアイディアも無いし、
不良たちを懲らしめて自白させるほど強くも無い。
俺は無力だ。

何にも出来ない。


どうしようもない自己嫌悪と、締め付けられるような痛みに襲われる。


「俺には・・・・・っ無理だよっ・・・・!!!俺には何にも出来ないんだよ!」
「俺が鍛えたんだ。そんなはずが無い」
ぴしゃり、リボーンは言った。
それ以外、ツナに何も言わなかった。

ツナが、はっと気付く。
この赤ん坊の言葉は、冷たく、非協力的だったが
彼を「無力だ」と言ったことは、一度も無かった。



そうだ
泣き言を言っている場合じゃない


何にも出来なくても



どうにかしなきゃいけないんだ。






俺を今まで助けてくれたのは誰だった?


俺のためにここに居てくれたのは誰だった?


俺に命に代えてでもお守りします、なんて言ったのは、誰だった?



ツナは、どうしてか分からないが、何だか泣きそうになった。
ぐっと堪えて、目をこしこしと擦る。
「獄寺君・・が・・・・退学なんて、嫌だ。いなくなるなんて嫌だ」
「そうだろう」
リボーンにまっすぐ見つめられる。
決心はついていた。
「獄寺君は俺が助ける」
こんなに必死になったことって、今まであっただろうか。
リボーンを、今度はまっすぐ見つめ返して、ツナが言う。
「リボーン、一つ、貸してくれないか?」

 

 

 

 



山本は校長室の前にいた。
もうすぐ昼休みが終わり、四時間目が始まりそうだったが、連れて行かれた獄寺のことがどうしても気になって仕方なかったのだ。
あの校舎の穴は獄寺がやったものではない、と、山本は確信を抱いていた。

彼はツナ以外のためにあんなことはしない。

それに、獄寺は不良ではあったが、嘘をついて逃げ回る格好悪い不良ではないはずだと
何度も喧嘩を売られた身分、分かっていたからだ。
やっぱり獄寺か、と口々に言っていたクラスメイト達とは分かれて一人、中の会話を盗み聞く。
「ふむ・・・彼が、校舎の壁を壊したと?」
この声は校長か。あまり怒った様子ではない。どうも、困惑しているような。
「はい、校長。今までも何度か爆発物を所持していたという報告があった、獄寺です」
「今度ばかりは警察沙汰になるかもしれませんぞ。校舎に穴を開けるなど・・・」
「全く、成績は優秀なのに、馬鹿げた態度をとりおって」
好き勝手言ってる教師たち。畜生、完全に犯人扱いしてやがる。
幸いなのは、獄寺が派手な抵抗をしていないことか。
ここで教師を殴ったりしたら完全にアウトだ。
妙に静まっている扉の向こうの獄寺に、山本は内心ほっとする。
と、自分のシャツの裾を引っ張られていることに山本は気付いた。
その方向を振り返って、声に出さずに驚く。
裾を引いていたのは、ツナだった。
「山本、ちょっと協力して」
ツナとは思えない、驚くほど真摯な表情に、山本は言われるままに頷く。
彼が何を覚悟していたのか、山本はこの時点で知る由もない。



 

 

 

 

風はそのまま 明日を向かう

ココロが揺れて 進めなくても

 

“まだできるはず”

 

胸、ふるえるから

 

これからも一緒に、

 

 

ずっと一緒に・・・

 

 

 

 

 

 

 

続き