まず提案したのは獄寺だ。

「オレが風邪ひいた時は、とりあえず薬飲んで寝てるんですよ」
「・・・・・ん・・・」

まあ、それが一般的には妥当なところだろう。
ベッドサイドで意見する獄寺に、ツナは熱っぽい声で返事をする。
あつく潤んだ目で見上げられて。
それがどうも獄寺を刺激しているようだがツナ自身は気づいていない。
どうにか色々とこらえてから、獄寺は持参した袋の中身をテーブルに上げた。
出てきたのは、パッケージも色々な風邪薬の数々。

「・・・・ふわぁ・・・・・いっぱいだ」
「色々症状によって薬を変えるんですけどね。けっこうスゴイですよ、中には成分の半分が優しさってのも」
「・・・・・いやそれ胃薬なんじゃ・・・・・・・?」

獄寺は聞いていない。

「じゃ、これでイイっすかね」

どうもよく効くらしい薬をひとつ取り上げて、分量を見ながら数粒自分の手のひらに乗せる。
どこかに行っていたイーピンが、気を利かせたのか水を運んできた。

(何か、獄寺君にしてはまともだなあ・・・・・よかったよかった)

ツナはてきぱき作業をする獄寺を横目にして思う。
と、獄寺にベッドから上半身を抱き起こされた。

「10代目、口あけてください」
「え!?・・・・い、いいよ、自分で飲める・・・・」
「十代目のお手を煩わせるわけにはいきませんから」

片手でツナの上半身を支えながら、申し訳なさそうに獄寺は微笑む。
今の獄寺は、先ほどの慌てようを考えると信じられないくらい、
何か紳士だ。かっこいい。

「あ」

ツナは素直に従うことにした。
獄寺の2本の指が入るくらいに口をあける。
ツナの体を支える獄寺の腕に、不自然に力が入ったのには気づかなかった。

「・・・・・・・・・失礼します」
「ん」

小さな口に薬を含ませる。
ツナが口を閉じたとき、獄寺の指が唇に少し触れた。
ズギュウウゥゥゥゥゥンとばかりに動揺する獄寺だが、熱で頭がぼうっとしているせいか、なおもツナは気づかない。
獄寺のほうは、まあなんというか、普通にピンチだった。
理性が。

「(10代目唇柔らかいほっぺ赤ぇ目ェうるうるだ体熱い息荒いあああああヤベーーーーー!!!)」

今までは彼をいたわるつもりでがんばって自制してきたのだが。
そこはズモーキンボム隼人。沸点と臨界点は誰より低い位置にある。
気を抜いたら愛しき十代目に襲い掛かってしまいそうだ。

「ごくでりゃくん、みじゅ・・・・・」
「・・ッ、すみません」

口の中の薬に顔をしかめて言ってきたツナに、はっとしてテーブルの水に手を伸ばす。
そんな獄寺を眺めていたツナが、薬があるせいで舌足らずな声で言った。

「ごくでりゃくん、どひたの?」
「は、はい?」
「かお、まっからよ?」

そんな状態でくりんと首を傾げられては。

ぷつん。

「10だ」
「風邪はモトから絶ああああぁぁぁぁぁつッ!!!!!」

べギャッ!!!!

獄寺がシてはいけないことをシようとした瞬間は、彼の頭が吹き飛んだ瞬間だった。
吹き飛んだというか、かなり本気のフルスイングが思いっきり決まったというか。
声を上げるまでもなくゴトンと床に力尽きた獄寺。
獄寺(の頭)を打った張本人は、冷静に彼の持っていたコップを水を零さないようにキャッチする。
こんな芸当ができるヤツは・・・・

「いやー念のために見張っててよかったなー。ほれツナ、水」
「・・・ひゃまもと・・・・ごくでりゃくんぐったりとひて動かゃいんらけど・・・あともとかりゃらつのはじゅつうらとおもう」
「気にせすんな☆」

ツナは青ざめつつも水を飲んだ。
必殺山本スマイルでそう言われれば、そうするしかないような気がするツナである。
舌の上で溶けつつあった風邪薬を飲み込むと、山本のほうを見返す。

「っぷは!山本・・・何でいきなり獄寺君打ったんだよ!?」
「んー?」
「しかもネギで!!」

ツナが困惑しつつ指差したのは、山本の右手が握るネギ。
ネギだ。あくまでもネギ。もちろん獄寺の頭を『べギャッ!!!!』とかいう効果音でぶっ飛ばしたのも。

「ケホッ、あんなヤバイ音して・・・獄寺君の頭蓋骨陥没したかもしんない・・・・・ネギでゲホッ」
「なーに言ってんだ、ツナピンチだったんだぜー?」
「・・・そなの?」
「まーそれよりさ」

明るく返しながら、山本がベッドから乗り出してくる。
乗り出すどころかツナの足の上にひょいと跨るような格好だ。
足に感じる山本の重み。
上半身を起こしたままぽかんとしたツナと、高さは違うが向かい合うような感じだ。

「熱があるときはよー、腋の下を冷やしたほうがいいんだってよ」
「・・・・へぇー。初めて知った・・・」

言いながら、山本はツナのパジャマの前ボタンをぷちぷち外し始めた。
会話の流れからとても自然な行為で、ツナは止めようともしない。
全部外し終わるとパジャマの前をぱっと開く。
風邪でどこか火照った、白い胸と腹が現れる。

「・・・・かわいー」
「・・・・・・・・?山本、今なんかゆった?」
「ンや。それよりほら、ばんざーい」
「子ども扱いするなよぉ・・・・・・・」

言いつつもツナが両腕を上げれば、山本がどこからか持ってきた冷やしタオルがあてがわれる。
腕を閉じてまたボタンをして完成だ。

「・・・・ありがと山本・・・・・・・冷や冷やしてていいかも・・・」
「ほらツナ、まだ終わってねーぞ?」
「え・・・・・・・?」
「風邪の治しかたっつったらこれだろ」

山本がにっこり笑顔で取り出したのは、先ほどのネギ。
ツナは悪寒で熱が2度ほど下がった。様な気がした。

「尻ネギv」
「嫌だああああああゲホゲホッ、ケホッそれ絶対効かないからーーー!!!」
「いや、やってみねーとわかんねぇぞ?」
「とか言いながらゲハゲホッズボンに・・・ゲホッ、手ぇ掛けるなよッ・・・」

むせすぎて涙が出てくる。
普段から体格・腕力ともに敵わない山本が相手だ。
風邪をひいてダウンしていたツナの抵抗など暖簾に腕押し豆腐に鎹糠に釘。
そうこうしているうちに両腕を捕まえられてしまう。

「ネギは首に巻いて熱をひかせるんじゃないのかよ・・・・・!!?」
「そうかもなー。だから念のためネギは何本か用意してあるぞ」
「ああもうオレネギまみれ!?・・・・・ゲホ、あんまりいないだろ風邪ひいてネギ漬けにされる人」
「んじゃ早速・・・」
「ぎゃあああああああああああああああああ」

ベッドの上で体をくるりと反転させられる。
絶体絶命、もとい真名板の上の鯉とはこのことだ。

「待ってタケシ兄!」

と、制止の声がかかる。
山本が・・・イイトコだったのに、という顔で・・・振り返るとフゥ太がいた。

「尻ネギよりいい方法があるんだ!」
「何ネギだ?」
「・・・・・・ネギは忘れろ・・・・!!」

ここまでボケる山本も珍しいなと思いつつ、半生半死で突っ込みを入れる。
そろそろ意識が朦朧としてきたツナに、語りかけるようにフゥ太が言葉を零してゆく。

「ツナ兄、さっき『よい風邪の治し方』ランキングやってただろ?それの1位を教えてなかったよね」
「は・・・・ああ、そだったっけか・・・・・・・・・・・・」
「あのねツナ兄。1位はね、『人にうつすこと』なんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うつす?」
「んー、つまりね」

満面の笑顔のフゥ太。
ニッと笑った山本。
どうでもよさそうに鼻ちょうちんを出しているリボーン。
ツナはというと、バリバリ嫌な予感でいっぱいだ。

「ツナ兄、ちゅーしようv僕がツナ兄の風邪もらってあげるvvv」
「そういう魂胆かああああああああああああああああああああああ!!!?」

額の濡れタオルが落ちるのも気にせず、フゥ太から逃れようと後ずさる。
と思ったら山本に腕をつかまれた。
力の入らない体はいとも簡単に捕まえられる。

「悪ぃなボーズ。こればっかりは譲れねーよ」
「タケシ兄!・・・・・・・独り占めはよくないよ?」
「フゥ太何怖い事言ってゲホゲホガホッ・・・!」
「ツナ、目ぇ瞑ってろよ?すぐ終わっから」
「すぐ離す気無いだろあんたら・・・・・・・あ、あああ頭痛がまた・・!!」
「ッはっ!!!10代目ピンチの気配が!!!!」
「ぎゃあああああああどんな復活の仕方だ獄寺く・・・・・・ん・・・!!?」

絶叫に便乗するように再発した酷い頭痛が意識を奪い、
唐突に起き上がった獄寺に突っ込みを入れた瞬間、ツナの世界が反転する。
頭の上でひよこがピヨピヨ鳴いている感じだ。
疲労やらなにやら色んなものが限界を超えてしまったらしい。

「ああっ、テメェら十代目に何してやがるっ!!!」
「ハヤト兄もダメだからねっ!!ツナの風邪はボクが治すんだから!」
「ツナの風邪もキスもあげらんねー。なーツナ?」
「キ・・・!!!!?オレだって譲れるかああああああああああああああああ!!!」
「・・・・あああああぁぁぁぁ・・・・・・・」

いよいよもってツナがヤバくなった瞬間だ。

「どけ、お前ら」

今までどこにいたのか、リボーンの声が飛ぶ。
反射的にツナの部屋にいる全員が全員、動きを止めた。
ただツナだけはずっと動けないのだが。
そのツナに近づいて、ベッドにひょいと飛び乗り動けないツナの膝に乗る。
そのままリボーンは、ツナに。



ちゅ。



「「「ああああああああああああああああああああああ!!!!」」」

どこかかわいらしい赤ん坊のキス。
一瞬あっけにとられた獄寺に山本にフゥ太が、息ぴったりに絶叫した。

















































ピ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−ッ

嫌に聞き慣れた電子音。体温計を取り出して数を見る。

36.1℃

「下がったーーーー」

ほっとしたように言って、ツナは胸をなでおろした。
体も熱くないし、頭痛もないし、のどだっていつもどおりだ。
昨日の高熱がウソのように調子がいい。

「まさか、みんなに看病してもらって本当に治るなんてなー・・・・・」

獄寺の薬が効いたのかもしれないし、山本の体の冷やし方がよかったのかもしれない。

「でも一日で治るなんて・・・・」

それでも、こんなに劇的に回復するとは思っても見なかった。
昨日の様子では悪化するかもとまで思っていたのに・・・・・・

「あんまり覚えてないなあ・・・・・・・・・・・」

確かキスして風邪を治す治さないの議論をしていた。そこまでは覚えている。
しかし昨日はそこまでしか記憶が無い。
どうやら途中で気絶してしまったようだ。
記憶が無い間何をされたのかと思うと寒気が走るが、結果的には元気になった自分がいる。
あの後何があったのだろう?

カチャッ

ドアが開く音に振り返る。

「治ったか?」
「ああリボーン、もう熱はぜんぜんって赤ーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

そして絶叫。
ツナが見たりボーンは、きっちり着こなしたスーツも黒い帽子も、頭のレオンもいつもと変わらない。
ただ顔の色が、茹でダコのごとく真っ赤だった。
リボーンはけろっと言ってのける。

「風邪をひいちまってな」
「お前風邪ひくとそうなるのか!!?つか顔の色しか変わってない!!!」
「熱がひかねー」
「・・・・・・・・その色、お前体温何度だよ・・・・・・・つか人間か本当に・・・・!?」

恐ろしげに後ずさるツナ。
だがまあ『リボーンだから』の一言で大体のことがまかり通るこの赤ん坊のことだ。
いちいち驚いていては身がもたない。
息を整えていると、リボーンが赤い顔のまま普通に言ってくる。

「朝飯だぞ。早く降りて来い」
「んー、わかった・・・・・・・ってリボーン、お前安静にしてなくて大丈夫なのか?」
「オレはお前ほどヤワじゃねーよ」
「うっ・・・・悪かったなヤワで・・・・・」

かっこよく言ってまたドアから去ってゆくリボーン。
ツナは悔しげにその背中を見送った。

「・・・・・・あれ?」

そこで、ふと気づく。




1位はね、『人にうつすこと』なんだ!

『よい風邪の治し方』ランキング

「風邪をひいちまってな」

ツナの風邪もキスも

キスして風邪を治す治さないの





「オレはお前ほどヤワじゃねーよ」






ツナの風邪をもらったのは。





「え?〜〜〜〜〜〜〜〜えぇ・・・・!?」




気づいてしまったツナの顔は、リボーンと同じくらい真っ赤だった。

























 

 

 

 

 

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44000HITリク「ギャグテイストでツナ総受けのリボツナオチ」でしたっ!
青城 涼様、リクありがとうございましたーーーー!!!
しょっぱなからあれですがごめんなさいっ!!
なんなんでしょうこの長さ・・・!キャー!!
リボーン以外皆阿呆ですいませんです・・・あああ山本まで・・・・・;;
リボツナオチに、なってたでしょうか。ドキドキ。
つかタイトルのわりにあんまり皆優しくないですネッ!←開き直り
こんなんでよろしいでしょうか・・・・!?捧げます!!

 

 

 

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