僕らは小さく

強く生きてく

 

 

 

 



四時間目真っ最中。
だというのに、体育館の裏にいつものように三人はサボっていた。
学年は三年。学校でも有名な不良三人組だ。
なぜ有名かというと、つい先日一年の転入生一人に、三人がかりで(しかも凶器つきで)ボロ負けしたからなのだが。
「あ〜〜〜・・・笑いがとまんねぇ」
「だなぁ。獄寺の野朗、今頃センコーに殴られたりしてんのかな」
「で、泣くんだよ。俺じゃありませぇんってなー。ヒャヒャヒャ」
下品な笑いを発する。
今日実施した卑怯な手口の仕返しが成功した。それだけで上機嫌になる。
近づいてくる二人の足音にも気付かない。
「おもちゃでもダメだからな、ダイナマイトは」
「分かってらー」
最終確認を済ます獄寺と山本。
怒りの矛先は、既にロックしている。
「素手で殺す!!」

 

 

 

たいせつなひと

 

 

 

 

 

獄寺は体育館裏に躍り出た。
ビビりまくるのは不良三名。
「果てろ」
ドゴォッ!!!!
一人の腹に完璧な蹴りが極まる。爆音に程近い衝撃音。ためらいは無い。
「許さねぇ。沢田さんに、あんな思いさせやがって」
蹴られた男が声も上げずに崩れ落ちる。タバコの煙とともに、殺気が立ち昇る。修羅という言葉が残った不良たちの頭を掠めた。
「ひぇっ・・・・!!!」
一人が横に逃げる。体育館裏だから逃げることはたやすい。
だがそれは獄寺一人の場合だ。
「すんません先輩、足蹴にします」
ごしっ!!
謝っておきながら悪びれのしないことを言って、山本が逃げようとする背中を蹴たぐった。
「ごはっ!?」
もんどりうった不良の体を、逃げられないように踏みつけた。
「うぎ・・・・ぐが・・・・・・」
「卑怯な手使ったんだからしょうがないスよね、先輩。これでも手加減してんだから」
逃れようと伸ばされた手を踏みにじる。思わず顔を上げた不良は、声にならない悲鳴を上げた。
「ホントは顔の原型、無くなるくらい殴りつけたいんスけど、それはそれで問題になるんで」
獄寺が修羅なら、山本は羅刹といったところか。
最後に残った三年の不良もまた、獄寺の怒りの餌食となった。

 

 

 

 

 



「それどころではありませんよ、校長」
「そうです。沢田が自白しているのですから、獄寺のことなど」
騒ぎ立てる教師たちに、ツナは内心ほっとした。獄寺君の身代わりになろうとしたことがばれれば、また獄寺君が危険にさらされる。
が、次の言葉に、もっとまずいミスに気付いた。
「火をつけるのに使ったライターも没収だ。出せ」
ツナは硬直する。マズイ。ヤバイ。実際爆発に必要な火器のことを考えていなかった。
一気に汗が吹き出る。めまいがしそうだった。いつも肝心な所で失敗する自分に。
「えと、えと、あの、ううんと、えと、あうう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうした?出せ!」
ツナが返事を濁すと、更に語彙を強くして詰め寄られる。絶体絶命。もう謝り倒そうか。そう考えた直後である。

 


バタアン!!!

 

校長室のドアが乱暴に開けられた。
「山本、獄寺君!!・・・・・・・・・・・・・・ってうわ!」
そこに会いたかった友達の姿を見て顔をほころばせたツナだが、ぼろぞーきんのようになった三年の不良たちも一緒に転がり込んできて、思わず声を
上げる。
絶句する教師たちを前に、獄寺が有無を言わさぬ覇気を込めて言い放った。
「ジジイども、こいつらが壁を爆破した犯人だ。証拠はコイツ」
山本からひょいと手渡されたスポーツバッグ・・・・・・・・不良たちの一人のものだ・・・・・・を開けて、ドサドサ中身を出す。
「お、おい獄寺、何を・・・・・・・・・・」
あっけにとられていた教師がやっと一声かけると同時、獄寺が目的のものを掴み上げる。
それはトレーナーだった。持ち主の不良が、トレードマーク代わりにいつも制服のシャツの上に着ている。
「!!!!!!!!!!!!」
その場にいた全員に、それが証拠となる理由が分かった。
そのトレーナーに、大きな焦げ跡がついていたからだ。
爆破した時にその跡がついてしまったのを、このバッグの中に隠していたらしい。これ以上ない証拠である。
「獄寺君・・・・・・!!」
犯人を捕まえるだけじゃなく、証拠まで用意してくるとは。全く優秀すぎる部下に、ツナは感動を覚えた。
もちろん、本当に自分の言ったとおりにやってくれた山本にも。
「間違いないようですな」
校長の一声に、教師たちが不良を校長室に引っ張り込み始める。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃ、失礼します」
「待て」
「!!!」
そっと校長室を出ようとしたツナに、教師の鋭い声が飛ぶ。
「犯人が分かったのはいいが、沢田、お前の言ったことは何だったんだ?」
「えーっと・・・・・・・・・・・・・気のせいでした。一種の気の迷い」
「信じられるか。それにあの証拠は・・・・・・・・・・・あ?」
「全部気のせいです!失礼します!!」
はぐらかそうとするツナに、教師が校長の机をかえりみる。そこには、ツナが提示した証拠のダイナマイトが置いてあったはずだ。
だが、そこには何も置いてない。
素っ頓狂な声を上げる教師をそっちのけに、ツナは急いで校長室を出た。
疑っていた教師は、暴れだした不良を押さえるのに手こずり、それ以外の追求は考え無かった。
もちろんのこと、
密かに校長室の窓から這い出た形状記憶カメレオンの事など
誰も気付きはしなかった。
校長のつぶやきにさえも。

 

「良い友達を持ったな、沢木君」




 

 

 

 

 

 



「はぁ―――――――――、ドキドキした。ありがとう、二人とも」
安堵のため息をついたツナ。
向き直り、笑顔で言った。
「獄寺君。よかった。退学になんなかったんだよね、俺たち。よかった・・・・・・・・・・・・っどわあ!!!?」
「十代目!!!!!」
獄寺にいきなり抱きすくめられ、ツナは悲鳴を上げる。
「十代目・・・・・・・・・・・・・・・・何て、何てことを、俺なんかのために」
「獄寺君、苦し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それ以上、ツナは何もいえなかった。
力強く回された腕が背中をかき抱き、二人の体を更に密着させる。鼓動が高鳴った。どちらともなく。
「俺は今日、また助けられました。でも、次からは絶対、危ないこと、しちゃダメです。俺は全力で守りますが、守りきれないかもしれないでしょう。身
代わりなんて、ダメです。俺なんかどうなってもいいですから。俺のことなんていい。助けられて嬉しかった。ですが・・・・・・・・・・・・・・・・」
獄寺の体から漂うタバコのにおいや熱い言葉、その他諸々。
ツナの体まで、熱くなってしまうようだった。
「あなたがいなくなっては、意味がないんです。何もかも。あなたは、俺にとって」
「俺もだよ」
ツナが震え始めた獄寺の体に腕を回す。
「あんな方法でゴメンね。俺にとっても、獄寺君は大切な人だから」
世界が二人だけになる錯覚。
獄寺の胸に、熱い、何かが広がる。
一層、ツナの体をきつく抱きしめた。嬉しくて、愛おしい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・光栄です、心から」

涙さえ出そうだった。




 

 

 

 

キミと出会えた。

 

それが素晴らしい 

 

信じ合える。

 

それが嬉しい

 

かけがえのない そんなすべてを 

 

これからも一緒に、

 

 

 

ずっと一緒に…

 

 

 

 

 

 

 



「・・・・・・・・・どうしたもんかね、こりゃ」
「え、う、うわああああ!!!?」
突如聞こえてきた山本の声に、ツナは思いっきり獄寺から飛びのいた。
襲ってきた羞恥心に、顔を熱くする。
一方獄寺のほうは、行き場をなくした腕を小刻みに震わせていた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッケンコー骨ッ!!!いいとこで邪魔しやがってええええええ!!!!!」
「いーじゃねぇかあれだけ独占できたんだから。なぁツナ?俺も心配だったんだぜ」
ぎゅむ、と、今度は山本に抱きつかれる。
「ンむっ!!?」
「あ、コラ!!!!!」
「正直さ、ツナが助けたかったのも、ツナが頼ってんのも、獄寺なんだよなー。ズリーの」
「山本?」
ふと見せた静かな表情に、ツナが心配そうに見上げる。
しかし、なんでもない風に、山本は笑い返した。
「まぁいっか。よーし一件落着!!ツナに感謝しろよ、獄寺v」
「お前の五千万億倍は感謝してんだよ!!」
「もう、二人とも・・・・・・・・・・・・・あ」
今更のように、四時間目終了のチャイムが鳴る。

 



ハッとして、互いに顔を合わせ、
三人は教室へと走った。

 

 

 

 

 

上手い コトバ 

 

見当たらないけど 

 

たった ひとつ 忘れないでいて

 

 

 

 "たいせつなひと" 

 

 

 

伝えたいこと

 

 

 

 

「きっと...いつもキミを信じてる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「たいせつなひと」by19  本文に一部抜粋・題名にも引用。

今まで読んでくれた人がもしいるならば私は謝ると同時に深く感謝せねばならない
ありがとうございました!!!!!長々としててすいません。
ほとんど縁のないシリアスに挑戦して玉砕しましたですハイ。
大好きな曲なんです。青春っぽくていいなあって。って。←いいわけくさいな
1の「獄寺を助ける」っつーノリのツナを書きたいがためにこんな長いの生産してしまいました。
というわけで結構山そっちのけの獄ツナ。ごめん山本。特にラストとか。
ていうか捏造話です。完全。不良三年とかまた登場したらヤヴァイなコレ。
個人的に、校長の忘れっぽさを前面に出そうとがんばりました(何で)。

シリアスは要勉強。
感想なんぞいただけたら参考になります。ついでに大喜び。

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