世の中は予想外のことが多すぎる。
想定と結果
ああなんてオレは幸せなんだろう、などと1年に2,3回思うかどうかも微妙なセリフを頭で描いて。
ツナは浮き足立ちながら下校の道を歩く。
(ほんっとう、よかったな〜〜〜〜)
珍しい、本当に珍しいことである。
いつもやる気無くだらだら歩いてるツナが。
途中ふにゃりとにやけてしまうような状態というのは。
「ただいまーーーー」
これまた珍しく元気に玄関の戸を開ける。
「〜〜〜〜〜っ!!」
「きゃーきゃーー!」
入れ違いにランボとイーピンが外に走り抜けてゆく。
また家に勝手に入って遊んで、などと。
迷惑がましい顔もせずにツナは笑顔でそれを見送った。
幸せとはいかなるものにも勝る寛大をくれるものだ。
部屋に続く階段をふわふわした足取りで上る。
「あー・・・今なら獄寺君がダイナマイト転々と落としながら歩いてても笑って済ませそうだなー」
「なら雲雀と狭い個室に2人きりで閉じ込められるのはどうだ?」
「・・・・いやー・・・それは勘弁かな・・・」
自分の部屋のドアを開けた瞬間に。
背筋も凍る想定でいきなりテンションを下げられたツナは、想像して寒気を覚える。
今日もまたエスプレッソを優雅にたしなむリボーン。
がくーんと脱力しながら、ツナは律儀に答えた。
「流石に命に関わるのは笑って済ませない・・・・・って気分壊すなよリボーン」
「幸せMAXなところ悪いがニタニタ笑ってて傍から見るとキモイなお前」
「悪いと思ってんならもうちょっとオブラートに包んで言ってくれ」
いつものため息をついた。
と、しかし、自分の物珍しい幸運を思い出して。
ネクタイを解きながらも、ツナはまた顔がむずむずとしてくる。
「〜〜〜〜〜〜〜っはーーー・・・・・マジで嬉しいな〜〜〜」
「ケイ、アイ、エム、オー、アイ」
「は?」
「KIMOI」
「何の英会話だよ!!遠まわしに訴えんな!!!」
「全く今日はどうしたんだ?脳に損傷か?ダメに妄想癖が加わったらもはや生きる価値もねーぞ」
「オレの幸せ全否定か!!!?ホントにちょっとラッキーなことがあっただけだって・・・」
心をえぐるようなリボーンの毒舌も、そっと流すことができるものだから幸せとは大したものだ。
ただ単にリボーンの毒に慣れているだけのような気もするが。
「ほら、明後日に遠足あるだろ?それの班がさー、京子ちゃんと一緒になれたんだよ」
「遠足か」
「遠足ってたらやっぱ炊事・・・!京子ちゃんと一緒に料理できるんだーーーーー」
「・・・・・・・・・・・」
「遠足土曜日でだるいけどさー、京子ちゃんもいるなら全然いいなあって・・・・・・リボーン?」
相打ちが聞こえないので振り返る。
振り返った先にはちゃんとリボーンがいた。
ただし、お洒落なリュックを衣服のように身にまとい大きなポケットから顔を出したリュックコスチュームだったが。
「準備は万端だぞ」
「ついてくる気かああああああああああ!!!?」
「カムフラージュは完璧だ、絶対バレ無い」
「顔出てるぞ顔!!!」
制服から私服に着替えながらまくし立てる。
つくづくこの赤ん坊の笑顔は作ったもののように見えてならない。
「ダメダメ!遠足は校内行事だから連れは禁止なの!!」
「誰が保護者として行くと言った?」
「・・・保護者・・・・いや・・・・保護者・・・・・・・・・」
「久しぶりの授業か。腕が鳴るな」
「リボ山先生ぇーーーーー!!!ってどうせ邪魔する気だろ!?絶対来たらダメだからな!!」
つい感情的になって、ツナは強い調子で叫んでいた。
ふと、リボーンが黙る。
ツナははっと罪悪感に駆られた。
(い、言い過ぎたかな?)
「てめぇの命令なんか聞くと思ってんのか?」
「ああああああああああこのガキャあああああああああああ・・・・・!」
しれっと返してきたりボーンに頭痛を感じながら。
幸せ気分をそがれたとツナは小さく呟いた。
ところが次の日に予想外の事態はあっさりと起こった。
「え、遠足ってお弁当持参なの?」
並盛中学校、昼休み。
教室のざわめきの中に、ツナの疑問の声は溶けていった。
ツナの周りに集まっていた獄寺、山本、京子、花、同じ班の4人は一瞬きょとんとしてから。
へらりと笑顔になる。
「・・・だよなー!フツー2年の遠足なら自炊だって!!」
「残念だけどね、1年生も2年生も遠足は炊事じゃなく弁当よ」
山本が明るく言って、
花がくすっと笑いながら説明してくれたが。
ツナは羞恥心でそれどころじゃなかった。
「そ・・・そうだったんだ・・・・」
(ああああああ恥ずかしッ!!よりによって京子ちゃんの前でこんな勘違いを・・・!!)
みるみる紅潮するツナを見て、獄寺は明るい声とともに立ち上がった。
「ご安心を10代目!職員室に掛け合って炊事遠足にさせてきます☆」
「いいって獄寺君ーーー!!掛け合ってとか言いつつダイナマイト出しても説得力のカケラも」
「はっはっはっはっはっはっは」
きゃあきゃあやっている2人と、相変わらず豪快に笑い飛ばしている山本。
そんな3人を前に、京子は今更ながらにはっとする。
「あたしも炊事だと思ってた・・・・そっか、だから材料の分担とかしてなかったんだ・・・」
「・・・・このコは・・・」
花が額に手を当てた。
「きょ、京子ちゃんも?」
「勘違いしてるのあたしひとりじゃなくてよかった〜〜〜!ありがとうツナ君」
「京子はいいとしてさ、あんた何でそんなに炊事遠足がよかったの?」
「え」
「まあ、何となく理由は分かるけどね」
「なっ・・・・!」
「?」
ツナは慌てて、意味深に微笑んだ花と京子の間に視線をさまよわせる。
「もしかしてツナ君、すっごくカレー食べたかった!?」
「・・・そうじゃなくて。ていうか京子にとって炊事遠足は全部カレーなの?」
幸いのところ、京子は何も分かっていないようだったが。
「オレはどっちでもいいけどなー。ツナのエプロン姿なら家でいっぱい見たし」
「・・・・オレのエプロンですべてが決まるの?」
「オレはまだあんまり見てないッス!というわけで炊事遠足に改定させるべく校長を支配下に入れておきますね」
「そんなことのために学校を牛耳るな!!!」
「10代目のエプロン姿は『そんなこと』じゃあないですよ!!!」
「力説されても!!!?」
と、騒いでるところに京子の声が飛んだ。
「リボーンちゃんも来るの?」
聞かれたツナはなぜかしどろもどろになって答える。
「え!?ま、まさか!子連れで行くわけには行かないし、第一あいつ邪魔してくるから・・・・」
「いーじゃねーか!今までも何度か教室に来てたし」
「うわ、ちょっとガキは勘弁してよ!?」
おおらかな山本をよそに、首を横に振るツナと寒気を感じてる花だったが。
しゅんとした京子を前に口をつぐんでしまった。
「そっか・・・リボーンちゃん、来たがってると思うんだけどなー・・・・」
「そ、そうなの?」
「だって遠足だもの、子供なら楽しみに決まってるよ」
「・・・・・・・・・・・・そう、なのかなあ」
京子の心優しい物言いにどこかほだされながら。
ツナは赤ん坊の笑顔を思い出す。
(あいつの考えてることって、イマイチわかんないんだよなあ・・・)
予想外のことというのはどうしてこう連続して起こるのか。
「ちょ・・・・町内会の旅行ぅ!?」
「そーなの〜〜!温泉行くのよv」
なにやら若々しい仕草で喜びをかみ締めている自分の母を。
ツナはあんぐり口を開けて見返している。
「ホントはツッ君も連れて行きたかったんだけどね・・・」
「い、いらないよ!オレは遠足あるんだって!」
「わかってるわよ。今日から1泊2日だけだからちゃんとお留守番できるでしょ?」
「今日から!?急すぎ・・・ちゃんと言えよそういうことは!!」
「あら言ったわよ?でもツナったら浮かれてて聞いてないんだから」
「う・・・・・・・・・・」
既に荷造りもしてしまっている母が拗ねたように言った。
予想外というよりは、自分の落ち度の結果のようである。
言葉を次げずにツナは黙る。
それをツナが納得したと見たのか、奈々は1泊2日なのに妙に盛り沢山の荷物を肩に掛けて玄関に向かった。
もう既にウキウキ旅気分で。
「そーゆーワケで行ってくるわね。お土産買ってくるから」
「ちょ、ちょ、ご飯とかどうすれば・・・」
「今日の晩御飯は作ったのが冷蔵庫入ってるわよ。お金はテーブルに置いておくから。明日の夕方には戻ると思うわ」
ドアを開けながらの母の言葉にツナはハッとしてすがりつく。
「明日の夕方!?明日の遠足の弁当は・・・・・・!!」
「え、お弁当?遠足って炊事なんじゃなかったの?」
「心配するな」
落ち着いた声が介入。
その声の正体に驚き、振り向く間に。
声は更に予想もしない言葉を言ってくれた。
「弁当くらいならツナにも作れるぞ。ママンは安心して温泉で日頃の疲れを癒してきてくれ」
「な・・・・・おい!!」
「あらそう?それじゃ、いってきまーす」
ぱたん。
閉じた玄関のドアに行き場の無い手を伸ばし、ツナは数秒硬直した。
そして。
「無茶言うなよリボーンッ!オレ弁当なんか作ったこと無いのに!!!」
「ムリならコンビニででも買っていけばいーじゃねーか」
先程の母への頼りがいのある声とは裏腹に、リボーンの声はぶっきらぼうな調子である。
この幼児は何でこんなに自分にだけ厳しいのか。
そりゃあ家庭教師だからか、とツナは自問自答しつつ文句をたれる。
「皆が弁当なのにオレだけコンビニのじゃ変だろ!?」
「イヤか?イヤなら弁当くらい作ってみせろ」
「食材とか、調理もどうすればいいかわかんないよ!!!」
「失敗は成功の元というだろ」
「失敗を前提にしてどうすんだ!!京子ちゃんと一緒に食べるんだから自分の作った弁当なんて」
「オレの分もちゃんと作れよ」
「まだついてくる来かああぁぁぁぁぁ!!!作るわけ無いだろお前の分なんて!!」
売り言葉買い言葉。
無責任に母を送り出したりボーンに納得いかないと地団太を踏む。
反論しまくったところで、ツナが作るか買うかしか方法が無いのは分かっている。
分かっているけれど勢いづいた言葉は止められない。
「迷惑なんだよお前が来るとッ!!いっつも無茶なことやらせるんだから・・・」
「・・・・・連れて行ってくれないの?」
「可愛い言い方してもダメーー!!!そんなんに騙されるか!!」
「そうか」
ツナが勢いのままに叫ぶと何だか素直にリボーンは引き下がった。
むっとした顔のまま、玄関に向かう小さな背中を見送る。
とぼとぼ歩き、何も言わずにパタンと戸を閉めるリボーン。
そのすべてを見守ってもツナの心持ちは変わらなかった。
「・・・さびしそうなリアクションしたって・・・演技なんだよな、全部」
ひとりごちて自分の部屋に行く。
鞄を置いて、着替えて、ふと窓を見ると。
外を歩く黒スーツが見えた。
「・・・・情にほだされたりなんかしないよ、オレは」
誰に聞かせるとも無い。
楽しいことを考えることにした。
とにかく明日は遠足だ。オレだけコンビニ弁当ってのはやっぱりイヤだけど。
でも京子ちゃんと食べれるんだ。夢みたいだ。もしかしたらおかず分けてもらえるかも・・・・・
明日が楽しみだ・・・・・・明日の遠足に、リボーンが邪魔しに来ないのなら・・・・
想定外の結果というのは。
本人の手の届かないところで常に起こっている。
それは本人にはどうにもできない。
人の力でもどうにもならないものだってあるのだから。
「うん、そういうわけだから・・・・次の人に・・うん、じゃあ・・・・・・・・・」
終始力無い通話の後、かちゃんと静かに受話器を置いた。
外は大雨。
多すぎる雨粒が滝に似た音を作り出すのをツナは電話の前に突っ立ったまま聞いている。
しばらく聞いて部屋に戻った。
『遠足は雨で中止』の連絡網は、ちゃんと次の人に伝えたのだ。
「京子と弁当が食べれなくて残念だな」
部屋に入った途端飛んできた声に、
「それだけが楽しみだったんだろ?」
「・・・・・・・・・・・うん」
ツナは脱力したように答える。
「・・・まあ、コンビニ弁当持って行かなくてよくなったのはいいんだけど」
「自分で作るのは諦めたのか?やる前から根性無しだな」
「あーいいよ根性無しで・・・・・・・」
「オレはツナが失敗弁当持ってって笑いものにされるのを楽しみにしていたんだがな」
「お前やっぱり変なことを・・・・楽しみに・・・・・・・・」
言いかけて。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
はたと。
何か考え付いたようにツナは目を見開いて、停止する。
考え込むかのごとく表情が動いたかと思うと、
そっと、リボーンの方を見返した。
「どうした?」
「・・・・・・・・・・・・なんでもない」
ツナはくるんと体を反転させて今閉めた部屋のドアをまた開けた。
その背がリボーンに見守られていることを自覚しながら戸を閉める。
足が向かったのは、
台所だ。
「何だこれ」
「何だって・・・・見てのとおり弁当だよ」
大雨に混じり、特に嬉しくもなさそうな声を上げるリボーンに、
ツナもまた怒るでもなくただ返す。
部屋から出て行って1時間後、ツナが戻ってきたと同時にリボーンの前に置いたのは、
小さな丸い蓋がされてある容器。
弁当から視線をツナに向けて、リボーンがなおも無感情な声で言った。
「素直に弁当を作ったのはいいがな、この大雨で遠足にいくつもりか?ボケたか?」
「そんなこと分かってる。これはお前に作ったんだ」
気にしていない様子でツナは弁当の蓋を開けた。
現れる、弁当に合わせた大きさのコロッケ、適当な野菜、半分敷き詰められた白米。
黙ってそれを見ているリボーンに、
ご丁寧にも用意したらしい箸箱から箸を出して、ツナは差し出した。
食べてくれという合図。
「何でオレがお前の弁当の毒見をしなきゃいけねーんだ?殺すぞ」
「・・・・京子ちゃんが教えてくれたんだ」
乱暴な言葉を吐いたというのに、ツナは薄く笑ってこう言う。
「リボーンだって、遠足なんて初めてだから、行くの楽しみにしてたんだろ?」
リボーンにとっては酷く予想外の言葉が続く。
「邪魔するつもりだったか知らないけど・・・オレはそれはイヤだけど、遠足は行きたかったんだよな」
「・・・・・・・・」
「嘘だって決めつけて、ごめんな」
ざあざあという雨の音。
赤ん坊は表情も変えずに、箸を受け取る。
だけどツナには分かった。
リボーンはとても嬉しいという『表情』をしている。
「遠足はいけないけど、弁当喰えばそれっぽい気分になるかなって・・・・・」
「うまくいったのか?」
「・・・・・いや・・・・・・・・・・それは・・・・」
言葉を濁らせるツナに構わず、リボーンは弁当を食べ始めた。
「調味料が何も無いというのは味気無いな」
「あ、忘れてた・・・」
「冷凍食品のコロッケをどうやったら爆発させられるんだ?」
「電子レンジが意味分かんなくて・・・・・うちの電子レンジって何ワット?」
「それにしても白米だな、清々しいほど」
「梅干どこにしまってあるんだろうって・・・」
「もしやデザートはこのデコボコして左右の耳の長さが著しく違うリンゴウサギか?」
「・・・ごめん、リンゴの皮剥きってオレには難しすぎ」
言い訳がましい言葉がが3つ4つと出てくるが。
「まあ、ダメツナにしちゃあ上出来だ」
「・・・・ホント?」
ツナの予想に反して、珍しい言葉が返ってくる。
「ああ、ありがとう。嬉しいぞ」
その瞬間のリボーンの笑顔が、満面の笑みに見えたことが。
ツナにとっては、何だかどうしようもなく嬉しい。
「お礼にデザートはツナに譲ってやる」
言うなりリボーンが最後に残った不恰好なリンゴを半分銜えてずいと近づき。
半開いていたツナの口にはくんと食べさせる。
親鳥が雛に餌をやるときのような動作。
「・・・・凹凸あって食感最悪だな、このリンゴウサギ」
自分の弁当の出来の悪さに自分でも苦笑するツナだったが、
「そうか?」
上機嫌そうなリボーンの返答が、
すごく予想外ではあった。
終
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64900HITありがとうございましたーーー!!
リボツナでツナがリボーンに手作りお弁当なリクでした!
リクエスト下さったM10.5様、素敵なリクに感謝です!
でもこんなんですみません;;;
下さったリクはクリアした・・・・かどうかも微妙ですが・・・・・
リボーンとかキャラ違うくてすみませぬ。
返品アリアリです!アキャーー!!(奇声)
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