ミルク

 

 

 

青空がまぶしい。
放課後のグラウンドには、既に練習用ユニフォームに着替えたチームメイトたちが散らばっている。
山本は日直の仕事のせいでずいぶん部室に来るのが遅くなってしまっていた。

「遅いぞー、山本ーー!」

見知った顔の一年が、遠くでトンボをかけながら声を張り上げる。

「わりぃ!日直だったんだ」
返事をして、部室に入ろうとした。
その瞬間、けたたましい足音を聞いて振り返る。
目に飛び込んできたものは、小さな体。

「山本っ!!」

ついでに細い腕と、大きな瞳と、ふわふわの髪。聞こえるには彼をいつもそそらせる、高めの声。

「うわっツナ!どうした!?」

そんなヤらしい顔して、というのが声に出かかったがギリギリ止めた。
走りこんできたツナは、息が上がり顔も紅潮している。
しかも、半泣きだった。
ツナを問答無用で抱きしめたくなった山本だが、どうもツナはそれどころではないようである。

「ごめん!ちょっと入れて!!」

ツナは返事も待たず、躊躇ゼロで野球部の部室に飛び込んだ。
ドアの後ろに隠れてあたりの様子を必死に伺う姿は、怯えているとしか言いようがない。
ああ、例えるなら捕食者に追われる獲物?
ビクビク震えるツナに笑みを作って山本は聞いた。

「どーしたってんだツナ。何かまずいコトしたのか?」
「お、俺は何にもしてないよー!それより山本、ちょっとここにかくまっててくれない!?」
「ああいいけど」

ツナにそんなことを言われて断るはずもない。
幸い部室には、山本と同じくらい遅れて部活に来た者も、だらだら着替えてる者も居ない。
山本が部室に入ってドアを閉めればいい感じに二人っきりの空間が出来上がるはずだ。
そんな山本の腹の中も見えていないツナは、

「ホント?ありがと山本、マジ助かった!!」

ハーハー息を整えながら、涙交じりで礼を言う。
それにしても何こんな必死になってんだ? 山本が思うと同時。
ツナの顔が青ざめ、部室の扉が早急に閉められる。バタン!!という音が目の前で鳴った。
あっけにとられていると、背後に人の気配を感じた。

「おい、そこのお前!!」

かけられたのは何だか無駄に大きな声である。そちらを見てみると、短髪に鼻テープの、ガタイがいい男が走ってきた。
山本の前で足を止める。息はこれっぽっちも上がっていない。

「ここに、沢田ツナが来なかったか?」

山本は今も部室の中でプルプル震えているであろうツナのことを思い出す。
適当な方向を指した。

「・・・あぁ、それなら見たッスよ。あっちの方に走っていきました」
「そうか!すまんな!!」

シュピ!と手を上げたかと思うと、その男、笹川了平はすばやく走り去っていった。山本の吐いた嘘に疑う素振りもない。
了平を見送って、一息つくと。

「十代目〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」

今度は獄寺だった。心底心配そうな顔をして、辺りを見回している。ツナを探しているらしい。

「オイ野球野朗、十代目見なかったか?」
「今さっき笹川の兄ちゃんに追っかけられてあっち行ったぜ」
「うがっ!!またかよ、クソッ!!」

聞くやいなや、獄寺はダッシュでその場を後にした。単純だな、と山本が胸中笑ったのも知らないままで。
今度こそ誰もいなくなったのを確認して、山本は部室のドアを開けた。
ツナが隅っこから心配そうに出てくる。
ニッと笑って見せて、ツナが逃れようと必死だった男が行った方を親指で指す。

「今来たヤツ追っ払っちまったけど、よかったか?」
「追っ払った、の?・・・よかったあ〜〜〜」

はぁ〜と肩の力を抜いた。彼を狙っている男が一番近くにいることなど分かっていない。
普段あまり使わない部室のイスにツナを座らせる。
ツナの横でユニフォームに着替え始めた。

「すげーな、ツナモテモテじゃん」

カバンを下ろしながら笑って言うと、ツナが酷く疲れたように言った。

「そんなこと言うなよ・・・毎日会うたびにボクシング部に勧誘されて、逃げるの大変なんだからな」
「ツナにぶっ飛ばされたのに、こりねーよなあの人も」
「うん。ねぇ、そういえば、獄寺君は来なかったの?」
「来てねーけど」

自らの制服のボタンを外しながらも自然に嘘をつく。
二人っきりでいたいのに、あの犬にツナの居場所など教えるものか。
ネクタイを緩めてシャツをパタパタ扇ぐツナを見て、脱がしてーと山本は思った。

「ふーん・・・・・・・・・・・・・あー、安心したらのど渇いた・・・」
「コレ飲むか?ストロー無いけど」

カバンに入っていた紙パックの牛乳を差し出してやる。

「・・・・・・ありがと。・・・若干賞味期限とか保存方法とか気になるんだけど」
「大丈夫だろたぶん。それに俺ツナが牛乳飲むとこ見たいし」
「なんだよそれぇ」

軽く笑いながらツナはパックをあけ、白くにごった液体を渇いたのどに流し込む。
シャツを脱ぐ手を止めて、山本はその光景を横目に見た。
両手でパックを持って、顔ちょっと上向かせて
ゴクッゴクッ、のどが上下するたびに発せられる
流れ出るミルクが少し口から零れ、それをぬぐう指

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ツナ、エロい」
「ぶっ!!!?」

山本が思わず呟いた言葉に、口に含んだ牛乳を思い切り噴き出しそうになり慌てて手で押さえたが、

「あっ・・・」

ポタタッ、と、流出を抑え切れなかった牛乳が手から滴りシャツを濡らした。
手を離してみると、口の周りは牛乳ヒゲどころじゃなさそうな牛乳まみれ。
ツナは慌てたり恥ずかしがったり、とにかくパニクる。

「ごご、ごめん牛乳零しちゃってって小学生かよ俺!?そもそも山本がへんなこと言うからっ」
「・・・ツナ」

ひとりパタパタしていたツナだが、山本が前に回りこむと更に顔を赤くした。

「うわ!?何見てんだよもー山本のほうがエロいよ!!」
「お前、そんなに俺を発情させてーの?」
「え?」

山本はツナの片の手から牛乳パックを取り上げ、床に置く。
イスに座る彼に目線を合わせるように膝立ちになった。
牛乳でぐちゃぐちゃになったツナの顔はおかしいほど彼を興奮させる。
口の周りのミルクで思わず連想したあの行為に、欲がぞわりと這い上がってくる感覚。
山本はにたりと笑った。

「擬似ガ○シャってやつか」
「ぎじ???・・・・・・・・・・・やッ」

ツナは小さく悲鳴を上げた。
山本の舌が、彼の顔についた牛乳を舐め始めたからだ。

「あ、山本ッ・・・何、して・・・・・・んっ」
「何って・・・ん、後始末・・・・・・・かな?」

ツナの頭を捕まえて、ゆっくり拭うように舐め上げていく。
時々牛乳をからめとってピチャリと音を立てる。ツナの肌はやわらかく心地よい。
ツナは考えもしなかったこの状況に、ただビクビク体を震わせた。
首でいやいやしようにも、頭が固定されているので無理だった。

「やめろよ、汚い・・・・・これ、俺の口から出た・・・」
「ん・・・・・・・・・・おいしい」
「そうじゃなくっ・・・ンむ」

言い終らないうちに、山本の唇が口を塞いだ。
ツナの咥内に熱い何かが侵入して、隅から隅まで丹念になぞられる。
口の中をいやらしく動き回る山本の舌の動きは激しい。ツナの中を好き勝手に蹂躙した。
二人の唾液が交じり合い、

「ツナ、牛乳味」
「・・・・・・・・・・・・・・ッ」
「これで、汚くなんかないだろ」

舌が動くたびに濡れて艶めく。
やっと唇が離され、そう囁かれて、
ツナは確かにキスしちゃえば一緒だなあと妙に冷静に考えた。
目の前で笑みを浮かべる、女子の一人や二人簡単に虜にしてしまいそうな色男。
改まったように、ツナの心臓のリズムが早くなってゆく。

と、山本の手がシャツに伸びた。
ぬれたシャツのボタンがプチプチ外されていくのを眺めて、ハッとする。

「んじゃ、こっちも舐めてやるよ」
「・・・・・・・・あ、ダメダメダメ、そっちはダメッ!!」
「何で?気持ちよくするって」
「気持ちよくしちゃダメーーーッ!そもそもなんでこんなエロいコト・・あっ」
「今更やめられるかっての。ツナがあんなかわいい顔するからいけねーんだ」
「やだぁー!どんな理屈だよっ!!」

バタン!!!

「オイこらケンコー骨おまえが言った方に行っても十代目居なかっ・・・・・・た・・・」

獄寺の何が悪かったか。おそらくタイミングに違いない。
野球部の部室のドアを開けた、目の前の光景に消え入る語尾。一瞬、彼は夢かとも思った。
脱ぎかけのシャツを引っ掛けてツナの胸元に口付ける山本。
制服の上を脱がされつつ顔中べたべたにして今にも泣き出しそうなツナ。
部屋に微かに漂う牛乳の匂いに、思いを張り巡らす余裕もない。

ブチブチブチッッ

「十代目の顔にぶっかけやがって!!!!殺ス!!!!」
「何か変な解釈してるー!?ていうか鼻血鼻血鼻血」
「邪魔だ、獄寺。さっさと出てけ」
「十代目を汚した罪は万死に値する!!!果てろ!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

先ほどまでの行為のおかげで、ツナにはけんかを止める力も残ってはいなかった。
獄寺がかなり本気で(鼻血出してるけど)ダイナマイトを投げつけようと構える。
しかしここは野球部部室。山本は金属パットを手に取った。
ツナはそんな二人を遠くのことのように見ている。

「ていうか、シャワー浴びたい・・・・・」

ミルクまみれの顔と体。
この先自分がどうなってしまうかもわからず、ただため息をついたツナであった。



 

 







 

 

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馬傘鉛様、5577HITありがとうございました!!
キリリク「ツナ総受けでエロい山本」を書かせていただきました。
本当色々すみません;こんなのでよろしかったらどうぞ!!返品可ですよ!!!

 

 

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