放課後教室




理由としては色々あった。
近々あるテストに向けての勉強をしたかった。
一度習ったはずなのに分からない事だらけなので、一人で問題を解くのは困難を極めるだろうと、彼自身思っていたのだ。
そこで教えてくれる人が必要になる。
「ねぇ獄寺君、放課後ヒマ?」


第二の理由は、本当の家庭教師役であるはずのリボーン。
彼が提案する、問題にミスした瞬間爆発物のスイッチを入れるという激烈スパルタ教育から逃れたかったのだ。
「俺、今日は教室に残って勉強しようと思うんだ」





ツナはどきどきしながら獄寺の返事を待った。
帰り支度をしていた獄寺が、何の躊躇も詮索も無く笑顔で返す。
「俺に出来ることならなんでもしますよ、十代目」
「そう?じゃぁ・・・・・勉強、教えてくれる?」
獄寺が与えてくれる無償の奉仕を一身に受けるツナ。
それでいて何もしない自分に罪悪感を覚えたりもするが、こればっかりはしょうがない。
「もちろんですよ!」
むしろそれを光栄に思っているらしい獄寺に、ツナは内心ほっとした。
「俺が手取り足取り腰っ・・・・・・・とにかく教えてあげますvV」
「え、あ、うん。ありがとう」
言いかけた言葉が気になるが、とりあえず礼を言う。
ごめんね、などと言いつつ浮かべる
ツナのその笑顔に、獄寺はうっとりと微笑んだ。
のだが。
長い腕がツナの細い肩に組まれて、瞬時に眉間の皺を深くする。
「山本ー!?」
「ツナの腰だったら俺に取らせて」
「は!?何言ってんの!!?」
ビキ、などという音が聞こえて。
「十代目の腰を狙おうなんざ900億年早い!!!!」
「億!!?ていうかダイナマイト駄目だってーーーーーー!!!」
山本の手を離れて仲裁に向かうツナ。
その姿をじっと見る。
そして、山本が明るく言った。
「なぁ、勉強会俺も混ぜろよ」






「・・・・で、この式をここに代入すると、この式にたどり着くわけです。・・・・・・十代目、何かご質問は?」
「獄寺ー、ここんとこわかんねぇんだけど」
「てめぇは後回しだ山本!!俺は十代目に聞いてんだよ」
「うわ酷っ」
「え・・えっとさ、獄寺君・・・・・・・・・・・・・その・・・・・・・」
「はい、何でしょう?」
「代入ってなんだっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・廊下に立ってろ山本ォ!!!!!」
「俺!!?」
勉強会が始まって三十分が経過する。
いきなり指されて声を荒らげる山本。
獄寺の懇切丁寧な質問にすら疑問符を浮かべるツナ。
ツナに教えるより山本を怒鳴りつけるのに忙しい獄寺。
この光景がはかどっているといえただろうか。
再び、山本が手を上げる。
「獄寺先生、俺はいつまで廊下に立っているべきですか?」
「お前が人として欠如している何かを取り戻すまでだ」
「何か凄いこと言ってるし!?」
少なくともツナには、そんな根本的な問題を考える余裕も無い。

「なぁツナ、俺が人として欠如している何かってなんだと思う・・・・・?」
「いやシリアスぶって聞かれても」
何だかもうやる気すら失せてきたツナが、山本の、いつか見た鬱な横顔にため息をつく。
そんな彼にはかまわず、獄寺はビシッと指を突き立てた。
「十代目を敬う心だ!!!」
「人として!?」
「なるほど」
「納得してるしー!?」
勉強よりツッコミを鍛えようとしているんじゃないかこの人達。
そう思ってしまうツナである。



さらに時間は経過。
「何か頭が疲れてきた・・・・・・」
そう言ってぐったりと机に伸びるツナに、
獄寺はハッとする。
「す、すみません十代目!俺の説明が不十分でしたか」
「いや、そうじゃなくてさ。もう一時間も勉強してるから」
こんなに続いたの初めてだし、と
ケンカの仲裁で引かれた時間を考えずにへらっと笑った。
そんなツナの顔を、本人に(もちろん獄寺にも)気付かれないように見ていた山本が、急に立ち上がる。
イスの立てる音に、ツナと獄寺も顔を上げた。
「一段落ついたし、何か冷たいモン買ってくるわ。ツナ何がいい?」
「え?えーっと・・・・じゃあ、コーラ」
「分かった。獄寺は」
「俺が行く」
こちらも唐突に立ち上がった獄寺に、ツナはびくりとする。
山本のほうは少し驚いて、そして笑っていたが。
「十代目の飲み物を調達するのは、俺の役目だ」
獄寺は有無を言わさぬ剣幕で山本を睨みつける。
先に気の利いた行動をとられてムカついたらしい。
それを知ってか知らずか、山本も『役目』を譲らない。
「いいって。お前も教えてて疲れただろ?」
「てめぇ俺の言ったこと聞いてたのか?十代目、すぐに買ってきます」
すごんで微笑んで走り去る。
相変わらず行動の早い獄寺に、ツナはあっけに取られていた。




「よーし、作戦成功」
「へ?」
ツナの頭上から、こんな声が聞こえて。
「作戦って?」
山本が向かいの席・・・もとい、さっきまで獄寺が座っていた席に腰掛ける。
崩した感じの座り方で、正面からからむ視線に、
ツナは意味も無く緊張した。
「ツナと二人っきり大作戦」
「え」

言われて、緊張ではなくただ単に心臓が高鳴っているだけだと気付く。
顔が熱い。
「な、何言ってんのさ」
「ホントだって。ここんとこお前に獄寺がつきっきりだったから」
ニイッと笑って見せる。

山本のその笑顔は、獄寺の無邪気なそれとは違っていて、

それが、他の友達には見せたことの無いような笑顔で。

「俺と二人っきりになったって、良いこと無いだろ」
「いいじゃん親友だし。それに俺だって」
親友に寄せるにはいささか強すぎる思いではあった。
「ずっとお前と一緒にいたいんだよ」
「山本・・・」
その思いは、彼の、本気の目を知っているツナに


真っ直ぐに届く。


「なんちゃって」
「へ?」
土壇場で聞かされた言葉に、ツナは目をぱちくりした。
山本のほうは既にいつものノリに戻っている。
「何だったんだよ、今の!?」
「あっはっは。いや一応オチつけとかないと途中で我慢できなくなりそーだし」
「オチ!?我慢って何!!?」
山本が笑い、ツナは顔を青くしたり赤くしたりしながら詮索する。



「十代目!!お待たせいたしました〜vV」
「獄寺君っ」
「ありゃ。もう来たのかよ」
獄寺が片手に三本ジュース缶を抱えてドアを開けた。
自分の席に座る山本を見るなり叫ぶ。
「十代目の御前から退きやがれ!あ、十代目、コーラです」
「あ、ありがと・・・」
態度の違いに苦笑して、山本が片手を突き出す。
「俺のくれたらどいてやるぜ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ほらよ」
獄寺が、案外素直に差し出した。
目の前の細身の缶に、山本が文句を言う。
「ポカリかよ。俺アクエリ派なのに」
「知るか。さっさと退け」
「はいはい」
数秒のやり取り。
眺めてから、ツナが胸中で思う。

 



でも、やっぱり三人のほうが良いんじゃないかな。

 



勉強がはかどらないけどね、と締めくくって。
ツナはコーラのプルタブに手をかけた。



 



 

 

 

 

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旧サイト時代に赤碕まろん様に900打を踏んで頂いて、勝手ながら押し付けたもの。
ちなみにリク内容は「獄ツナでほのぼの系かギャグ」・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・なってねぇぇぇぇぇ!!!!
山本片思い形になってしまった。反省!
獄ツナ前提だってのになんなんでっしゃろこの獄寺LOVEビーム一方通行。
ええい切腹!!!
いつかキリリクコーナー(?)に移動させます。
赤碕まろん様には本当、お世話になっとりますわ・・・・900打ありがとうございました!

 

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