昼時のサスペンス
「・・・あれ?あれ?・・・・・・・・あちゃー」
昼休みの教室である。
昼御飯を食べに席を立つ生徒、机をグループでくっつけ合う生徒などで騒がしい。
いつもならばツナや獄寺、山本は前者に属する者たちなのだが。
今日は少し様子が違った。
明るい日の光をうっすら写す淡色のカーテンの横で、焦り首をひねるツナ。
頭の上に疑問符が駆け巡り、冷や汗が伝い、
「ヤバ・・・・忘れたのかなぁ・・・・・・・・」
最後には諦めたように溜息を吐いた。
しょうがないか・・・と書かれている顔で、先程まで覗き込んでいた鞄を閉める。
「はぁ・・・・オレってどうしてこーなんだろ・・・・・・」
「どーしたんスか10代目?御飯食べましょーよ」
「メシいこーぜメシ」
獄寺と山本が明るく誘いを入れる。
ツナは2人を申し訳なさそうに見て、言いにくそうに切り出した。
「ごめん、ちょっと二人とも先に屋上で食べててくれる?」
「え!?」
「?」
「オレは後から行くから」
手のひらを合わせ、少し頭を傾けて。
眉根を下げてお願いするように言ったつもりだった。
だったが。
「どーしてッスか!?10代目ヌキで山本と飯喰うなんて華も無ければ希望も無い!!!」
「え・・・えと、ごめんね?」
「10代目のいない昼飯なんて・・・・しかも山本と二人きりなんて新製品のイカ墨メロンパンも不味くなります!」
「オレすごい言われようだなー」
「つかその新製品は美味いか不味いか以前にもうメロンかどうかも疑わしいのでは」
悔しそうに寂しそうにかぶりをふる獄寺。
新製品を仕入れるたびに味の新境地を開拓している並盛中学の購買もとい、
その手にぶら下がったビニール袋から見える妙に存在感のある黒いパンにツッコミを入れつつ。
ツナは今一度申し訳ない、のポーズをした。
「ごめん、とにかく先行ってくれないかな」
「・・・・・・はあ・・・10代目がそう言うなら・・・・・」
再度念を押されて諦めた獄寺だったが、勘の鋭いもう一人の部下は黙っちゃいない。
山本はツナの細い肩に腕を回して、優しげに訊いてみせた。
「ツナ、忘れ物したのか?」
「え゛っ・・・・・・・ウソ、何で分かるんだよ山本ぉ・・・・」
「んー・・・何となく」
「・・・・・・もう・・・・・・・・・弁当忘れるなんて、恥ずかしいからバレたくなかった」
にっこり笑う山本にちょっと情けないような顔をする。
そんなツナの顔も笑顔で見透かすような目。
溶けそうに至近距離で見つめられて、どうも敵わないなぁとツナは観念した。
同時に獄寺によって山本から引き剥がされる。
「お金は持ってるからパンか何か買ってこようと思ってたのに・・・・」
「テメーのさわりぐせはいつか身を滅ぼすぞエロテロリスト畜生め羨ましい」
「最後にちょろっと本音出てるぞー獄寺」
「・・・・・・聞いてる?」
「はいっ!一字一句逃さず聞いてます続きをどうぞ10代目!!」
獄寺の睨み顔が一瞬で満面の笑みに切り替えられた。
顔が整っているせいでそんな著しい変化にも、花が咲いたようなという形容がしっくりきてしまう。
少なくとも聞こえてきた『ぱぁっ』という効果音に、ツナは思わず半歩下がった。
「・・・・で、でも変なんだよなあ。朝ちゃんと鞄に入れてきたと思ってたんだけど」
今一度確認するように鞄を開けて中を見る。
紙切れ一枚などならいざしらず、弁当なんて大きなものが入っていたら見落とす筈など無いのだけれども。
獄寺と山本がつられるように鞄の中をのぞいてきた。
ほら無いだろ?と鞄の口を広げてみせる。
のぞいた中身は教科書とノートだけの暗い空間。
「入れてきたのに無いってのは、またずいぶんと奇怪な話だなー」
「うーん・・・・・・俺ってよく忘れ物するから・・・・・・・」
苦笑した山本にこれまた苦笑で返しながら、ツナ。
その横で獄寺はツナの鞄の中をじっと見つめている。
じっと。じぃっと。
「・・・・獄寺君、鞄閉めていい?」
「10代目、失礼します!」
「ぇ?」
あんまりに凝視されるもので恐縮しながら、ツナは獄寺に声をかけた。
だが返ってきたのはことわりを得る控えめな声。
返事を待つまでも無く、獄寺はツナの鞄の中に手を突っ込んだ。
ゴソゴソゴソゴソゴソゴソゴソ・・・
「ごごごご獄寺君えええ!?ちょ、何でオレの鞄を」
「鞄の底に大好物の火薬でもあったのかー獄寺?」
「ざけんなオレどんな生物だ!?・・・・・・・・・・・!あった!!ありましたよ10代目!!!」
キレながらも発見に歓喜するという見事に切り替えの利いた器用な表情で、獄寺が鞄から手を引っ張り出す。
唐突にツナの鞄を無理矢理探った獄寺の、その手に握られていたのは。
教科書に潰されていたらしくしわくちゃだが、清潔感のある青色の大き目のハンカチのような・・・・・
「あ、これ、弁当を包んでた布だ」
「鞄の奥の方に入ってました」
獄寺はツナにその、バンダナくらいの大きさの布を渡した。
いつになく眉間に皺を寄せ冷静な顔で。
そんな獄寺に便乗して山本が考え込むように顎に手をやる。
「入れてきた筈の弁当が、弁当包みを残して消え去るってのは、ツナの弁当がパクられたってことか?」
「え!!オレの弁当盗まれたの〜〜〜〜〜!!?」
「これは我々への挑戦と取っても過言ではありませんね」
「過言にも程があるって!!!」
キュピィィィンッと冴え渡るような効果音。が聞こえたような気がした。
黒い背景に閃光のようなひらめき。っぽい感じ。
斜め上には「名探偵隼人」の文字が。ある筈無いのに見えてしまう。
「恐らく犯人は4時間目の移動教室に乗じて犯行に及びました。オレらが教室を空けたのはそのときだけですから」
「もう犯人・犯行扱いしてる!」
「財布の中身が無事なので、犯人は最初から弁当を盗むことだけが目的だったと考えてよいでしょう」
「どんな目的だそれぇぇ!!!?」
「教室には鍵がかかっていないので侵入するのは容易です。間違いない、犯人は・・・この校内にいる!!!」
「範囲広ォッ!!!体は子供で頭脳は大人かああああ!」
後ろにツナのツッコミも踊る獄寺隼人名推理。
スッと腕を上げたかと思うと、あさっての方向を指し凛々しい顔でビシッとキメる。
「待っててください沢田さんっ!!俺が犯人を捕まえてみせます!!!」
「エマージェンシー!!獄寺君暴走開始!!!止めて山本!!」
「だとしたら犯人の目的は何だ?ツナの弁当には特別な何かが・・・・!?」
「ってうわあああ山本まで何ノリノリぶちかましてんだ!!?」
何やら賢そうに考察を始める山本に、ツナは思わず叫んでいた。
ベタフラでもつけられてそうな難しげな表情のボンゴレ10代目部下2名。
火サス(といっても規模がショボいが)のような展開に、クラスメイトが呆然としている。
平和であるはずの教室のど真ん中で、突如として起こった謎の事件(←ナレーション)。
と、山本が気がついたようにはっとした。
「っあ!!」
「も、もしかして正気に戻ったの山本!?」
「そうか!犯人の目的は弁当じゃない!ツナが使ってる箸だ!!」
「なっ・・・・・・!!まさかッ!!!」
「そうだ、ツナの唇を奪えない犯人がツナの箸を使うことでその欲望を満たそうとしてんだよ!!」
「ぜんぜん正気に戻ってねぇぇぇぇ!!!どんな推理だそれ!!?」
「弁当ばかりに気をとられてた・・・・・そうとしか考えられねぇ!でかした山本ッ!!」
「っええええええ!!!?」
絶叫、絶叫、また絶叫。
弁当やら箸箱の行方以前に自分の身が持つかどうかの方が心配になってきたツナである。
そんなツナの思い虚しく、獄寺と山本は教室の外に走っていった。
ツナに事になると、この二人の気の入れようは凄まじいまでのものとなる。
「そうと決まれば善は急げです!!」
「犯人捕まえてくるぜ、ツナ!」
「・・・・これでオレが行かなきゃ危険人物を放った罪悪感に苛まれそうな気がするからオレも行くよちっくしょぉぉぉぉ!」
その気の入れようが悩みの種なのだが。
半ばやけくそになって、健気なツナは教室を走り出た。
とはいえ真昼の、普通に平和な中学校である。
窓からさす日差しは心地良いし。
通行人である生徒はつかの間の休みを満喫しているし。
いつものように毎日モップ掛けされてる廊下は一応キレイだし。
つまるところ。
「まー犯人どころか証拠なんてそう簡単に見つかるわけ無いよね・・・・・・」
「10代目ッ!!犯人断定の重要な手がかりを発見いたしましたーーーー!!」
「何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」
「っしゃ!ナイス獄寺!!」
ツナの予想に反して、証拠物件はあっさり見つかった。
捜査一課系な険しい顔つきの獄寺が指すのは、廊下の左端。
山本とツナがその場所をよ〜〜〜〜く見ていると、見てとれる。
教室の後ろのドアから廊下の左側に、足跡のように転々と落ちている、
ごはんつぶ・・・・・・・・・・
「・・・弁当包み忘れる時点でかなりのアホだとは思ったんだけどな」
山本がしんみりと言った一言。
激しく脱力していたツナはただ力なく頷いた。
「いえ、油断は禁物ですよ。ホシは操作を撹乱するためにわざとこうしたのかもしれません」
「その線は薄いと思うよ・・・どうでもいいけど獄寺君はぐれ刑事とか見てたでしょ」
なぜはぐれ刑事なのかは、ツナにもよくわからない。
それはそうと、妙に意気込んでいる山本がごはんつぶを辿り始めた。
「とにかく手がかりはこれだけだ。辿っていってみようぜ」
ツナと獄寺も、山本に従ってごはんつぶを辿ってゆく。
廊下を真っ直ぐ。生徒の注目を集めていて恥ずかしい。
十字路は曲がらずにまだ真っ直ぐ。結構長い道のりだ。
突き当りを左に曲がる。そろそろRPG気分。
そこから5歩ほど歩いたところ。かなり嫌な予感が。
そしておなじみ消火栓の前でごはんつぶの道は途切れた。
「なるほど・・・・・ここがホシの棲家か」
「いやいやいやいやいや獄寺君、これはもう確実に・・・・・・!!」
リボーンだろ、と言う前に。
不思議そうな山本の言葉が耳に入る。
「消火栓が棲家ぁ?すっげーおもしれーー!」
「山本知らないんだっけ!?つかおかしいだろ感心してないで突っ込もうよ!!!」
「分かりました!!1,2,3で棲家に突っ込みます!!!」
「その突っ込む違う!!!!」
「123どりゃーーーーー!!!!」
「合図意味無ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
バタァン!!!
ツナの決死の絶叫も耳に入らないのか、アクセル全開快速獄寺が突っ走る。
もう誰にも止められないのか、ツナはそう思った。
獄寺が力いっぱい消火栓の扉を開く。
ズドびよょょょん!!!
「ッ!!!!!?」
突然のインパクト。
わけもわからず獄寺は吹っ飛ばされてツナに寄りかかる。
それもそのはず。
「よくわかんないけどびっくり箱みたくバネの先っぽがグローブになってるヤツが扉に仕掛けられていたーーーーー!!!?」
「な・・・・何かスゲェ屈辱・・・・・でも10代目の腕がチョイ幸せ・・・・v」
「うははははははははははははははははははははははは大丈夫か獄寺!」
「笑ってんじゃねぇーーーーーーーーーー!!!」
ツナがもういっぱいいっぱいになってツッコミを入れた。
獄寺がツナの腕の中で微妙な表情で力尽きようとする。
山本が腹を抱えて笑い、獄寺はなんだか復活した。
「ちゃおっス」
馴染み深い挨拶とともに、パンチングマシーン的なものが戻ってゆく。
消火栓の中で硬そうなバネが縮まって、カメレオンの姿に戻り、
小さな赤ん坊が口にごはんつぶをつけて現れた。
「昼時に何だテメーら。オレは忙しいんだぞ」
「リボーン!俺の弁当盗っただろ!?」
復活した獄寺君はそこらに置いといて、ツナはリボーンに詰め寄った。
本来なら今頃いつものように屋上でランチタイムを楽しんでいるはずが、変な推理イベントが発生しているのだ。
リボーンが弁当を勝手に奪ったせいで。
「ああ。雲雀にア○パンマンふりかけを貰ったからちょうど白米が欲しくてな」
「・・・そう・・・・今更だけどどんな関係なんだリボーンと雲雀さんて・・・・・・」
赤ん坊と不良風紀委員の未知の世界については深くツッコミをいれず、
ふりかけのプレゼントについても深く考えず。
ツナはいろいろなものを諦めたようにため息を吐いた。
まあ、リボーンの勝手な行動ならばすべて納得がいくのだ。
その証拠に、ツナの後ろでは二人の部下が安堵の息を吐いている。
「なーんだ、チビの仕業か〜〜〜。チビ、人のモン黙って持ってくのはダメだぞー?」
「リボーンさんだったんですかー・・・・オレはてっきり10代目の箸を狙う不逞の輩かと」
「もー・・・さっきも突っ込んだけどなんでオレの箸を狙うのさ・・・・・・」
何やら分かっていないツナが困ったように言うと、
山本に顎を掴まれにっこりされる。先ほどより相当近い距離で。
「ほら、オレはツナにちゅーできっからいーけど、できねーヤツがツナの間接キス狙うかもだろ?」
「へ?ちゅー・・・・?やややや山本!!!?」
「やめんかこのセクハラ刑事ワイセツ系!!」
「見ろツナ、ちょうどこんなのがツナの箸狙ってるんだぜー」
「獄寺君にはアリバイあるだろっ!!?」
「リボーンさん!!山本の脳のエロ成分を分泌している部分を破壊するよーな道具はありますかっ!!!?」
「ねーよ・・・・・・・・ああ、そういえばな」
通行人の視線も気にせず、山本はツナに迫り獄寺は山本にいきり立つ。
リボーンは冷静にその様子を見ていたが、ふと思い出したのか独り言のように言い出した。
「さっき歩きながら白米にふりかけかけて喰ってたら」
「・・・だからごはんつぶ落ちてたのか・・・・」
「探偵ゴッコやりたかったんじゃなかったんだなー」
ツナの弁当(ていうか箸)の安否が分かったからか、暢気な声色で笑う山本。
やっと山本からツナを剥がした獄寺はツナを自分の背に避難させていた。
リボーンは構わず続ける。
「御腹を空かした笹川了平に会ってな」
嫌な予感がするツナ。眉間に皺を増やす獄寺。山本の笑いが止まった。
「4時間目の体育が終わって、とても腹が減っているといってたな。そこでオレは」
「・・・・・・まさか・・・」
「了平に残ったおかずを全部くれてやったぞ」
「人の弁当何だと思ってんだお前ーーーーーー!!!」
「人助けって良いもんだな」
「その人助けのおかげで途方に暮れている人がここに!!ここに居ます!!!」
半泣きで挙手しているツナなど目に入らないようで、リボーンは小さな親切に悦っていた。
もーいいから購買行って早くご飯食べよう?そう言おうとして振り向いたツナだったが。
直後にぴたりと硬直した。
同時に、更なる混乱の幕開けを予想して青くなる。
「ご、獄寺君、山本、揃ってどす黒いオーラ纏っちゃってまぁ・・・・」
「ではリボーンさん・・・10代目のお弁当、および箸は」
「笹川兄のとこにあるとみて、間違いねぇんだな・・・・・!!?」
「そうだぞ」
ドヒュゥン!!!!!
両者一斉に最高のスタートダッシュ!
山本と獄寺という二人の修羅が今、了平とツナとの間接キスを阻止すべく走り出した。
ツナから見て二人の背中はぐんぐん小さくなる。
廊下を突っ走りぶつかりそうになった生徒を華麗に避けて階段を上がり・・・・・・・・・
「見送ってていいのか?」
「いいわけないんだよどちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
本日2回目となる涙交じりの絶叫。
ツナのスタートは少し遅めのものとなった。
話は数分前にさかのぼる。
男は目の前の級友をじっと見ていた。
その級友は一心不乱に昼飯にありついている。
驚異的なスピードで卵焼きに狙いを定め、寸分の狂いも無く箸を突き刺す。
刺し箸、と男は指摘しようとしたが生憎そのはるか前に刺された卵焼きは級友ののどの奥に消えていた。
トマトを刺す。口に入れる。ちゃんと咀嚼したかどうか男には分からない。
何かのフライを刺す。口に入れる。今度は咀嚼をしているようだが回数は2,3回だった。
結論としては。
「笹川・・・・前々から思ってたけどお前もーちょい落ち着いて喰え」
「むッ!!?いままむもみま!!!?」
「あと喰ってから喋れ」
「・・・・・・・ッ今何と言った!!?」
「それと人の話も聞け」
ぶっきらぼうに命令する男の顔は、はたから見れば不機嫌顔に見えたかもしれない。
「相変わらずすげー喰いっぷりだなお前」
「何を言う持田、中学生男児としてこのくらい喰う方が健康だ!!!」
「・・・・・・・・ボクサーって体重気ぃつけるモンなんじゃねーの?」
「心配は要らん!喰った分動けばいい!!!」
「そうかよ・・・・・」
男、持田は確信する。
目の前の男・笹川了平と話していると、テンションが上がるか激しく疲れるかのどっちかだ。
右腕が疲れたので今度は左腕で机に頬杖をつく。
イスに馬乗りするような形で笹川と向き合っているが、持田はもう昼飯を食べ終わってしまった。
そろそろ前を向こうか。・・・・・と、その前に気になることがある。
「今日弁当一つ多いんじゃねーか?」
「うむ、先ほど余っているというので師匠から譲り受けてな」
「・・・・師匠?て前言ってたピヨピヨ師匠?」
「断じて違うッ!!!パオパオ師匠だ!!」
「あー分かった分かった。で?この箸は誰んだ?」
了平の訂正をウザそうに聞き流しながら、傍らに置いてあった箸箱をひょいと持ち上げてみせる。
持田が言うと了平は一瞬動きを止めた。
数秒前まで了平がせわしなく動かしていたのは了平の箸で。
その了平や持田のものより一回り小さな箸は、用も無くそこらに転がっていたのである。
確信を持って了平が答える。
「知らん!!」
師匠から貰った弁当に、これがついてきたことにも気づかなかったらしい。
「・・・じゃーコレは落し物ってことだな?」
適当に確認してから、持田は小さな箸箱を持って席を立った。
口の中のものを飲み込んでから了兵が顔を上げる。
「どこへ行く?」
「職員室・・・美化委員は落し物見つけたら届けなきゃいけねーんだよ」
態度は適当だが妙に真面目な持田である。
ぶつくさ言いながら教室を出た。廊下を数歩歩いたところで・・・・・・・・・
向こうから走ってくる2人の人影を見た。
「?」
疑問符を浮かべるのもつかの間、猛スピードで爆走する2人の修羅は、
持田を跳ね飛ばさんばかりの鬼気迫る様子で教室に入っていった。
「避けろよセンパイッ!」
「退けゴルアアァアァァアアアァァアァ!!!!」
「うおぉ!!?」
剣道で鍛えた持田でもすんでのところで避けたのだ。
他のヤツならぶっ飛ばされていただろう。
今持田が出てきた、つまり二人が入っていった教室からは、絶叫やら悲鳴やらが聞こえてくる。
その中には了平のものと思われる声も。
「何だっつーんだまったく・・・・・・」
君子危うきに近寄らず。関わりたくないので持田は見なかったことにした。
と、向こうからまた一人走ってくる。
先ほどの2人のような覇気こそ無いが、なんだか慌てた風である。
その人物がよく見ると沢田綱吉だったので、持田はなんだか微妙な顔をした。
先方も気づいたようだ。いつもなら萎縮するツナだが、慌てているためか大声で話しかける。
「持田センパイ!!!今何か人轢きそうな勢いの2人が通りませんでした!?」
「俺はそれに轢かれかけたんだが・・・てめぇの仲間か」
「ひぃっ!!?確かに仲間ではあるけど制御不能暴走状態で・・・って」
ツナの目が真ん丸くなった。
その目が捕らえたのは、もちろん持田の手の中のツナの箸箱。
「あああああああああああ!!その箸箱何で持田センパイが!!!?」
笹川兄のところにあるはずが何故!!?困惑と焦りとでぐるぐるなっているツナである。
妙にテンションが高いツナにこれまた疑問符を浮かばせながら、持田は手の中のそれをツナに見せた。
「何だ、お前のかよ。落し物になってたぞ」
「そ・・・それはそうなんですけどっ・・・・!!」
ドバァン!!!
爆破音かと思うほど乱暴に、教室のドアが開かれた。
何となく聞こえてくるゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという効果音。
持田とツナの背中に、薄ら寒いモノが走った。
「てめぇが真犯人だったとはなぁ・・・・・!!」
「逃げようったってそうはさせねぇぞ・・・・・・・!?」
ドス黒いオーラの中に現れたるは2人の修羅。
持田には面識の無い、タバコを銜えた不良風と背の高い球児らしき人物だったが、
表情から察するにブチキレ寸前。
獄寺と山本が、ずずいと持田に指を突きつける。
マズイ。持田は直感的に思った。何がマズイかというと己の生命維持が。
「天然芝を使って10代目の唇を奪おうたあふてぇ野郎だ・・・・!」
「唇奪うて!!どうでもいいけど獄寺君天然芝ってお兄さんのこと!?」
「その箸が誰のモンだか分かってての狼藉か・・・・・・・・?」
「何となく名探偵から遠山の金さんになってきてない!!?」
「恐れ多くもボンゴレファミリー10代目ボス・沢田綱吉様の御箸であられるぞ!!?」
「違うぅぅぅ!!それ金さんじゃなく水戸黄門だ!!!」
殺気立った2人の口上。ツナの必死のツッコミが所々入っている。
持田は只ならぬ雰囲気に身の危険を感じツナを振り返った。
「何なんだよこいつらは!!おいツナてめぇこいつらに何吹き込んだ!?」
「オレは本当全く心から力一杯無関係(?)ですマジで!!!」
「「問答無用!!!!」」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!!!?」
「持田センパイ逃げてぇぇぇぇぇぇぇ!!!?2人とも止めッ・・・・!!!」
「「ボンゴリアン☆ダブルラリアット!!!!!」」
ズゴシャアッ!!!!
「ぐごはっ!!!?」
本日の獄寺と山本はすごく息が合っている。
何せプロレスのタッグ技を放つタイミングまでぴったりだったのだ。
「持田先輩いいいいいいいいい!!!!」
ツナの絶叫も虚しく、地面に叩きつけられた無実の先輩はがっくりと意識を失った。
「やりましたよ10代目!悪は滅びました!!10代目の箸も無事です!!!」
「あ・・・・ああああ・・・・いや持田センパイたぶん親切心で届けようと・・・・ああああああ・・・」
その手から箸箱を嬉しそうに拾い上げた獄寺。
ツナはもう言葉にならない。
かくかく震えるツナに優しげな山本が声をかける。
「先輩のことなら大丈夫だろ。そんなに強い力でやってねーよ思いっきり首狙ったけど」
「思いっきり首狙ったんだ!!?」
人ひとり倒したとは思えない爽やかさで笑う山本。
言われたツナは頭を抱える。
「もうかなり今更だけどこの人たち怖ぇーーーーー!!!!」
ツナは叫んでいた。叫ぶしかなかった。
「?何が怖いって?ツナ」
「確かに10代目の魅力は恐ろしいッスね!10代目の間接キスを狙うヤツまで現れて」
「あんたらのことだってえええええええええええええええええええ!!!!」
何が怖いって、全然自覚が無いことだと。
見事に盲目な部下たちにツナは力一杯絶叫した。
終
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犬太様、44444HITありがとうございましたーーーー!
リク「獄→→→(中略)→→ツナのギャグ小説」でした!!
わ、笑って許して!?(許すかい)
すこぶる遅くなったのにこんなんですみません;;
さらに長いしあんまりカプになってないしでもー地に額を擦り付けなければ!
白状すると持田は趣味です(人様のリクでお前)
獄をいつもよりまとも目に書いたんですけど・・・・どうでしょうか。
返品・苦情バチ来いでぃす!!ごめんなさいッス!!
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