マフィアの姫君2
高村組はここ数年平和だった。
周辺の住民とのいざこざもないし、パクられるようなヘマをする組員もいなかったのだ。
これからも平和であるはずだった。
高村組拠点の屋敷に、
リボーンと名乗る赤ん坊が現れるまでは。
組頭の高村が縁側で涼んでいるとき、そいつは突然現れ、開口一番こう言った。
俺はボンゴレファミリーのヒットマン、リボーンだ。
ここら辺一体は、今年の春から高村組でなくボンゴレファミリー十代目のシマになった。
お前等は出て行け。
淡々とそう言った幼児を、もちろん高村は笑い飛ばした。
リボーンは構わず続ける。
これは忠告ではない、命令だ。
今すぐ遠くに行け。さもないと大変なことになるぞ。
尚も、高村は部下と共に笑い飛ばす。
変わらない表情のまま、リボーン。
最後の命令だ、出て行け。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか、従わないか。
じゃあ死ね。
その言葉を合図に、高村組の屋敷は戦場と化した。
どこから取り出したのか赤ん坊はサブマシンガンを構え、情け容赦なしに乱射し始める。
戦場はたちまち悲鳴に満たされた。
逃げる者、ドスをもって襲い掛かり被弾して倒れる者。
部下が駆けつけてリボーンを取り押さえようにも、近づいたものは片っ端からぶっ飛ばされて動かなくなった。
しばらくすると屋敷の違う場所からも悲鳴が聞こえてくる。
すごい美女がマシンガンで弾丸をそこらじゅうに跳ね返らせながら、この世とは思えない料理を持って襲い掛かってきた。
その場所に倒れていた部下の一人はその後語った。
こうなったら最後の手段と、高村が蔵に隠していた対抗争用の銃器を持ってこようとすると。
武器は没収したぞ。
リボーンの言葉の通り、蔵は既に空っぽだった。
そのうちカブトムシの大群が突入してきたりで、
屋敷内は阿鼻叫喚の悲鳴の渦。
五代続いた高村組は、一日で壊滅したのだった・・・・・・・・・・・
・・・その話を聞いていて、ツナはとてつもなくいたたまれない気持ちでいる。
ほんっとに何やってんだリボーン!!ビアンキにまで手伝わせて、俺も一般人(ヤクザだけど)も巻き込んでえええ!!!
リボーンはよりにもよって「十代目のシマ」と言っていた。
「ふざけんじゃねえぞ畜生・・・ううっ、赤ん坊ごときに組を丸ごと持ってかれるなんて、おれぁ悔しくて悔しくて・・・・ぐすっ」
「げ・・・元気出してください・・・!」
目の前で思い出し号泣をしているかわいそうな高村組五代目組頭。
この人には自分の正体を知らせたらマズイ。本能的にそう悟る。
「俺が何したって言うんだよぉ・・・ちょっとヤクザなだけなのによぉ・・・・・」
「分かります・・・そういう連中って、人のささやかな平和をいとも簡単に踏みにじるんですよね・・・・・・」
「うう・・・あんたいいヤツだなぁ・・・・・」
心底共感して言うと、高村が妙に打ち解けた様子で言ってくれた。
ツナは数時間ぶっ続けの脅迫写真撮影(という名のコスプレ写真会)の途中につき、ふわふわで淡い色のドレスを着ている。
高村には、ひょっとすると彼が天使に見えたかもしれない。
よく見たら、後ろで控えていた部下1と部下2も先日の惨事を思い出して涙していた。
とうの昔に縄を解かれたランボが、なぜか一緒にもらい泣きしている。
リボーン・・・ホントにお前は・・・・・・・!!
どうもヤクザの心までデストロイしてしまったようである。
「ああ、お嬢さん、そろそろ3時だ」
「いやだから男ですって」
否定するツナに構わず、高村は立ち上がった。
「とうとうこのシマを奪還する時が来たってンだ。これでもう雑居ビル暮らしともおさらばよ」
「ビルで暮らしてたんですか?」
「ああ。あっちもなかなか快適だったけどなぁ、この屋敷には勝てねぇよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
本当にこの場所が好きなんだなあ、と、高村を見て思う。
気持ちは分かった。自分の居場所って、すごく大切なんだ。
ツナがそう考えた、その瞬間。
ズゥゥン・・・・・・・・
「?」
ズズゥウン!!ドォン!!!
「!!!!?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドガァァァァァァンン!!!!!!
「わーーーーーーー!!?」
「な、なんじゃぁ!?」
「ぴきゃー!?」
突如始まった爆発音。
それはどんどん高まっていき、大地を揺らす衝撃となって膨れ上がった。
驚く高村と部下(ついでにランボ)を見て、ツナは直感的に感じた。
まさか、獄寺君?
それは悪い予感であったが。
この世の中、悪い予感はえてして的中するものである。
高村の携帯電話に着信があった。
「おい、どうした!?」
慌てたように聞いた高村であったが、電話の向こう側はそれすらもしのぐ勢いの滅茶苦茶であった。
『正面門の警護担当の橋田ッス!!カシラあああっ!!逃げて、逃げてくだせぇ!!!』
「なんだぁ!?どうしたってんだ!!?もしや・・・この前の赤ん坊か!?」
ドゴン!!ガガァン!!!
鳴り止まない謎の爆発に音声を遮断されて、向うの声が聞こえづらい。
『ち、違いやす!!・・・あれは・・・・・・・・』
「はっ・・・!もしかして、女の方か!?」
『いえ、その女によく似たジャリが・・・一箱分くらいタバコ咥えて十代目ーとか叫びながらダイナマイト散布してやす!!!』
「ダイナマイト!!?ていうかジャリがタバコ吸ってんのかオイ!!?」
獄寺君だーーーーーーーーー!!!高村の叫び声に、予感が的中しツナは青ざめる。
『も、もう俺しか・・・・・ぎゃあああ!!?こっち来たー!!!』
「・・・おいちょっと待て橋田!正面門には武器を持たせて二十人配置したんだぞ!!?それが一人のガキに・・・・!!?」
『わ゛ーーーーーー!!!(ドッカーーーーーン!!)』
ブツン!!
正面門警護の者の無残な悲鳴を残して、電話は切れた。
高村はしばし呆然とする。
その間も爆音は遠くに鳴り止まない。
と、また着信があった。
『たっ・・・助けてくれーーーー!!』
「次は何だ!?」
『自分、裏門警護の坂本です!!カシラ、もう15人やられました!!!」
「なにぃ!!!?」
今度こそ、高村は愕然とする。
「何だ!?今度こそ赤ん坊か!!?」
『い、いえ、何かすごい爽やかな野球少年が金属バットでドダマというドダマをカチ割ってまわってますすんごい爽やかに!!!!』
「どこが爽やかだそれェェェェェェェェェェェ!!!!?」
や、山本もいるのーーーー!!!?信じられない気持ちのツナであった。
『うわあああああこっち来た!!素振りしながらこっち来たーーーーー!!』
「オイ坂本、逃げろここはひとまず!!」
『嫌だあああ殺され(ゴガギッ!!!)・・・ッ!!!!』
「坂本おおおおおおおお!!お前それでいいのか!?この世に生を受けて布団の上で人生の幕引きできないどころか死因が野球少年の爽やかフルスイングってそれでいいのかああああああああ!!!?死ぬなーーーー!!!」
高村の必死の絶叫も虚しく、電話は持ち主の断末魔を最後に聞こえなくなる。
爆発音がだんだん近づいてきた。恐怖の心も、同様に。
三度目の着信。高村は泣きたい気持ちで電話を取った。
「東門か!?それとも西門!!?」
『ぜぇ・・・はぁ・・・西門の田島です・・・!!ヤバイですカシラ!!武者鎧にゴツいメットかぶった女の子がホッケーのスティックをあちょーとか言いながら人体の急所に(ドゴッ!!!)のお゛ォォォォォォォォ!!!!!?』
「あちょー!?オイ田島!!?もーーーいやだああああああああ!!!!!」
ハル・・・・・・まで・・・・・・・・・・・・
もはや言葉にならなかった。
その場が沈黙に包まれる。どんどん近づいてくる爆破音とランボの泣き声があるせいでうるさかったが。
ツナが時計を見やれば、ちょうど3時。
高村が言っていた、人質とシマを交換する時間だった。
それが、この悲惨な事態。
逃げなきゃ。
よくわかんないけど逃げなきゃ!!!!!
ツナがフリルのついたスカートの裾を掴んで立ち上がった瞬間、高村の構えた銃口に捕らえられる。
相手はヤクザ。その銃も本物だろう。
ツナの両足が恐怖に凍った。
「・・・・もう・・・てめぇに人質の価値はない・・・・・!!!」
「そ、そんな・・・!!」
「一度ならず二度までも高村組を攻撃しやがって・・・・・・・」
「せ、せめて着替えさせてくださいこんなお姫様みたいな格好で死ぬのって・・・」
「かわいいけどゆるさねえええ!!死ね!!!」
「かわいいけどってなんスか!!!?ていうか俺関係ないのに!!!?」
微妙にかみ合わない絶叫の応酬。高村は引き金を引いた。
ドオオン!!!
一際大きい爆発音に、ツナは目を瞑る。
弾に撃たれる、あの感覚はやってこなかった。
変わりに感じたのは誰かのぬくもりで。
「・・・やれやれ」
いつの間にか、大きな手に肩を抱かれていた。場にそぐわないアンニュイな声。
泣きべそかいていた目をぱっと見開き、顔を上げる。
「ランボ!!!」
「どうも。姫のピンチを救うために、十年後から馳せ存じました」
「ランボ・・・もぅっ・・・・タイミング良すぎだよーーー!!!」
ランボが腕を振るうと、高村の持つ銃がいとも簡単に弾き飛ばされる。
ツナは感極まっていた。大人に感じる安堵と、ヒーローのような彼の登場に。
ランボはランボで、ふわふわしたツナの格好に、珍しく両目を開く。
「おや、今宵のボンゴレ十代目は本当にお姫様のようですね」
「今は昼だよ!!・・・ていうかランボ、後ろッ!!!」
「ご心配なく」
背後を狙って襲い掛かってきた高村の部下1部下2に、ランボが後ろ回し蹴りをお見舞いする。
それをモロに食らった二人は、もんどりうってちゃぶ台に足を引っ掛け転倒した。
何が何だか分からなくなっている高村が、呆然とそれを見送る。
「すごい・・・ランボって強かったんだ」
「失礼な言い方ですね・・・・誰のために強くなったと思ってるんです」
「リボーン倒すためだろ?」
「・・・・・・・・・・・・まあそれもありますけど」
何だかやりきれないらしいランボが、きょとんとするツナの肩を引き寄せる。
「ちょ、ちょっとランボ!?ここ敵の真っ只中・・・・・!!!」
「若きボンゴレ十代目、俺は」
「ホーームラーーーーン!」
ゴバキッ!!!!
とてつもなくいい音がした。
金属バットと、ランボの頭から。
「やーまーもーとーーーーー!!?」
「よおツナ、危なかったな。心配したんだぜ?」
「うわあバット血まみれなのにすごい爽やか!!今打ったのランボだぞ!!?」
「あー悪ィ、敵かと思った」
が・ま・んとも言うことなく倒れたランボは、そのまま煙に包まれて元に戻る。
「ど、どうやってここまで来たの?」
「裏門から入ってきた。いやー、ヤーさんが20人くらいオモチャの拳銃で襲い掛かってきてよー参ったぜ」
「参ったとか言う時限じゃないーー!!ヤクザが持ってるときくらい本物と思おうよ!!?」
「止まれってうるせーから片っ端から死なない程度に頭蓋骨砕いちまった」
「死ぬよ!!!!!」
「はっはっは大丈夫大丈夫。それより遅くなってゴメンな、ツナ」
山本はへらっと謝ると、ツナを抱き寄せた。
修羅場を切り抜けておきながら、山本は変わらず笑顔。
ただの野球少年だったのに、いつの間にか戦いにまで参加している彼に、ツナはちくりと罪悪感を感じる。
「どうして来たんだよっ!!」
「ツナ?」
「山本、野球あるだろ!!?怪我したらどうすんだよ!助けに来たりなんかしなくても・・・!!!」
「お前のためにここまで来たんだぜ?」
そういわれて、山本の腕の中、ツナの言葉がとまる。
山本はニッと笑って見せた。
「捕らわれた姫をナイトが救い出すのは、ジョーシキだろ?」
「じょ、常識って・・・・・・」
恥ずかしげもなくさらりと言った山本に、ツナは赤面する。
と。
「だあああああ人のシマで何ラブラブしとんじゃ貴様らああああああああ!!!!」
ほったらかしにされていた高村が、銃を拾い上げて乱射した。
ドン!ドン!ドン!!
立て続けに3発。
だが弾は二人の体に行き着くことなく、すべて金属バットで跳ね返された。
呆然とする高村に、山本が笑う。背筋が凍るような微笑。
「何、コイツが誘拐犯?」
ヤバイ、殺される。直感的に高村が感じた瞬間、
「あちょーーーーーーーーーー!!!」
間延びした声と共に、バリンと障子が裂けた。
そこから出てきた重鎧のハルが、ためらうことなくホッケースティックで高村の股間を突く。
「ほんぐおうぎゃああうがえおうおいううあ!!!!?」
この世のものとは思えない悲鳴を上げて、高村が昏倒した。何だか違う意味で殺された感じである。
「うわーハル・・・今のはちょっと・・・・・」
「い・・・痛え・・・」
「きゃーーーーー!!ツナさん、スーパープリティーですーーッ!!」
思わず股間を確かめる二人をすっぱりと無視して、ハルが黄色い声を上げた。
メットをした状態で言われても何だか嬉しくない。
あの日の橋の上で、俺はコレをされそうになってたのか・・・・・・ありがとう獄寺君・・・・・
・・・・獄寺君?
ツナはまた、嫌な予感を感じた。
いつの間にか爆発音は止んでいる。あんなに激しかったものが、止んでいる。
真っ先に彼の元へ駆けつけそうな獄寺は、ここには居ない。
「・・・・・・・・・・・・・二人とも・・・」
「ん、何だ?」
「どうしたんですかツナさん?」
間違いない。
これは嵐の前の静けさだ!!!
「伏せてくれーーーーーーーーー!!!!!」
ドォン
ドゴゴゴゴ
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ドゴオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!
叫びと共に途方もない衝撃と鼓膜が破れそうな爆音。
爆風に体が浮くのを感じて、諦めたようにツナは意識を手放した。
彼の体を受け止めた、暖かな何かを感じながら。
「姫、助けに参りました」
いや、だから俺姫じゃないって。
「姫、俺はあなたの御身が心配で心配で、敵陣にてあなたの名を叫びました。あといつもの倍の爆薬を使いました」
やっぱり君か獄寺君。ダイナマイト増やすなよ、おい!
「ああ姫、どうかその目を開けてください・・・・ここは王子様のキスで目覚めますね?」
え、なにいってんの!!!
がばっ!!!
ツナは起き上がった。上半身を起こした状態で、目をパッチリ開けて、辺りを見回す。
最初に目に入ったのは、獄寺の残念そうな顔だった。
「十代目・・・無事でよかった!!!!」
「わわ!?」
だがすぐに嬉しそうな顔に変わり、ツナに抱きつく獄寺。
彼に抱きすくめられながら、ツナは改めて周囲を見た。
見渡す限り、瓦礫の山、山、山だらけ。
おそらく最後の爆発が、屋敷のすべてを吹き飛ばしたのだろう。
ありえない光景にあんぐりと口をあけているツナである。
「獄寺君・・・実際問題、やりすぎじゃない・・・・・?」
「そんなことありません!!奴等はあなたを攫ったばかりか、あなたの服を脱がせ、マニアックな制服を着せて辱めました!!!この罪は爆殺しても有り余るほどです!!!」
「いや、俺ちゃんと言って自分で着替えたけど・・・・」
「・・・・・とにかく無事でよかったです!!!十代目ー十代目ーーーvv」
「うわ今なんか抹消した・・・って苦しいよ獄寺君」
その存在を確かめるように、獄寺はツナを強く抱きしめた。
山本とランボとハルによって、獄寺が止められるのは10秒後。
それまで、瓦礫の中、とりあえずツナは獄寺だけのものである。
「ボンゴレファミリーの怖さが分かったか?」
「あ・・・あああ・あ・・・」
リボーンの声が聞こえているのかいないのか、高村は虚ろな目で声を漏らした。
目の前は瓦礫と化した彼の屋敷。
「よりにもよってボンゴレファミリー十代目に手を出すとはな」
なぜか覇気の感じられる静かなリボーンの声。
高村が驚愕に声を絞り出す。
「あれが・・・あのかわいい少年が、ボンゴレファミリー十代目・・・・・!!?」
「ああそうだ。一番強いのは、あいつだぞ」
その言葉に、今度こそ高村は体中の力をなくし、膝をついた。
遠くの方でツナを取り合う4人を眺め、
「まあ、俺を抜かせば、だけどな」
どうでもいいことのように、リボーンは呟いて、そちらに向かう。
あの4人から姫を助け出せるのは、間違いなくリボーンだけだった。
終
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7000HIT記念「獄寺・山本・ランボがツナを姫と呼ぶ」でした。
成雛様、素敵なリクをありがとうございました!!
成雛様に捧げます。
本当あほすぎて長すぎてロマンスのかけらもなくて変なキャラ出張りすぎで申し訳ございません;;;
ちなみにコスプレで脅迫ネタはフルメタのパロです・・・・・
返品可ッス!オッス!!!
7000HITありがとうございました!!!
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