「イタリアにも花火はあるの?

見上げながら言うツナに、一瞬きょとんとして、そして事も無げに笑って獄寺が返す。

「祝いの時は良く使いますね。新年の瞬間とか・・・・・父が年の分だけあげてくれたこともありました」
「そ、そう・・・・・」

隣を歩くツナの表情がげんなりしたものに変わった。
上機嫌な獄寺は気づかないのだが。



 

花火

 






日は沈みつつある。
平均的に日が長い夏の日だ、とうの昔に門限は過ぎているだろうと、ツナはぼんやり思った。
家から結構離れた川原を歩いている。もうかれこれ20分は。

目的は夏の風物詩、花火大会。

一体どこからかぎつけたのか、川原での花火大会の開催を知った獄寺が
当然の如くツナを誘いに来たのだ。

茜色に群青の混ざる空の下、そろって歩く二人。

「花火、楽しみですねっ!十代目!!」
「そうだね」

何か獄寺君、物凄いわくわくしてるなぁ・・・・・

そう思いながら、自分を連れ出した人物をツナが横目にする。
効果音に「るんたるんた」という音でも使われていそうな獄寺に、

「十代目と見物できるなんて最高です!」
「あ、あはは・・・俺も嬉しいよ」

ツナは社交辞令たるノリで返答した。
が、まずかったらしい。
獄寺の顔がぱああああっと花も咲き乱れる笑顔になった瞬間、
何となく必死な弁解を開始する。

「いや俺が嬉しいのは花火を見れるからであって獄寺君が誘いに来たことはそりゃ嬉しいけどそれは」
「俺も嬉しいです十代目っvVvVvV」
「いや聞いてよ!!・・・・・・・・・って、あ」

いつものように顔を必要以上に近づけられて

獄寺の、整った顔立ちから双眸の長い睫毛、きれいな肌に唇。

いつものごとく顔に触れる吐息。

美形と形容するに相応しいそれらがツナの目の前で。


「・・・ッ!!!」


いつも通り獄寺が後から気づいて顔を真っ赤にしてそむける・・・・・・・・・・・

約三秒の間に行われる獄寺の一人流れ作業を
ツナは呆然と眺めていた。

「・・・・もうっ、獄寺君!だから顔近いってばー!」
「すみません十代目っ・・・・・・!!」

そして、今頃になってツナの両頬が熱くなる。

何でドキドキしてんだよ俺、という自分ツッコミは声に出さないでおいて。

時折顔をずずいと近づけたがる彼に、
半ばすねたように言った。

「大げさにそむけるくらいならそんな近づけないでよ」
「じゅ・・十代目が可愛らしくて、つい・・・・・・・・」」
「誉めてないし!!何言っちゃってんのさ!」

ぐっと拳を握って言う獄寺を、更にご機嫌を損ねたツナがぴしゃりとたたんだ。

獄寺に可愛いと言われるのは、ツナにとって非常に腑に落ちないことだ。
男に向かって可愛いとは・・・・・・・・そもそも自分がかっこいいとは思えないが・・・・・・・普通言うものではない。
だが山本や十五歳のランボにも言われたことなので、間違っていないことなのではと認めるも嫌だが思ってしまう。

「不可抗力ってヤツです」
「どんなだよそれ!?」
「気にしなくていいッスよ。それより早く行きましょう!始まってしまいます」
「うー・・・・・そうだね・・・・・・・・」

何だかはぐらかされた感の抜けないツナではあったが、
追求したところで獄寺が頬を染めてそんな・・十代目にそのようなことをしようとは微塵も云々
・・・・とわけのわからないことを口走るのがオチなのでやめておく。

獄寺に促されて足を早めた。

「あと五分くらいで着きますよ。花火がよく見えるポイントに」
「そうなの?すごい、よく見つけたね」
「十代目に快適に見てもらいたくて・・・・・・」

愛する人にでも囁けば、間違いなく虜にしてしまうセリフを
獄寺はためらいなくツナに向ける。

「俺に?・・・・・・・・・・・ありがとう」

屈託なく言うと、ほころぶ笑顔。
たぶん、リボーンにも向けないその笑顔。
その源が自分にあると少し思うと、ツナは嬉しくなった。

「喜んでいただければ幸いです」





空はほぼ完全に夜に制圧されている。




















































獄寺が言う「ポイント」とやら。

「・・・・・・・・・・・・・・・ここ、危なくない?」

安定感のないそこに腰掛けて、ツナが不安そうにつぶやく。
緩くカーブした川原を歩いてきた。そして終着点がここ・・・・・・・・・・・・・・・
橋の上だった。
地べたに座らず橋の手摺に腰掛ける形となる。
もちろん、背もたれは無し。両足も地面に着かずブラブラ。
真っ暗な中下を流れる川を見下ろす。不安になった。

「そうですか?・・・・・・十代目がそう言うなら場所変えますよ」
「え、・・・やっぱ大丈夫!いいよ。ここがいい」


獄寺君が一生懸命探してくれたんだもんね・・・・・・


どこかしゅんとする獄寺に、ツナは胸中そう思いつつ手を振る。
言ってやると獄寺が満足そうな顔をした。

どうにか手摺に尻を落ち着かせ、完全に夜に変わった空を見上げる。

「ここは人があまり来ないわりに花火がよく見えるんですよ」

獄寺がにこやかに解説してくれた。
混雑に巻き込まれないような配慮は嬉しかったが、
ここにいるのは橋の真ん中で仲良く座っている男二人だけ。

もしかして誰にも邪魔されたくなかったのかな・・・・・と
ご機嫌最高潮な獄寺を見て
うっすら、思った。


「ここまで結構歩いたね」
「そうですね。・・・・喉渇きませんか?よかったら何か飲みます?」
「うん。この辺自販機あるの?」
「麦茶とサイダーどっちがいいですか」
「・・・・・・・・・っってどっから出したのさそれ!!!?」

彼の懐からごっそと音を立てて出現した2本の500ペット。
驚愕するツナに、どうということでもないらしい獄寺が
やだなあちゃんと冷えてますよ、などと見当違いな一言を返してくれた。

そういえば体のここそこにダイナマイトを隠し持っている獄寺のことだ。
外見手ぶらでも何を持っているか分からない。
ツナは微妙な心境でサイダーを受け取った。

「うわ・・・何か懐に入れていたとは思えないほどよく冷えてる・・・・」
「十代目のためですよv」
「あ・・・・はは、ありがとう」


この男はツナのためならなんだってする。

一緒に花火を見るポイントも探すし、
彼を思って飲み物まで用意してくれる。

近づく害虫を追い払おうとして、
彼の親友を思いっきり爆破しようとした。

彼を小馬鹿にした教師も締め上げれば、
校庭くらいは平気で吹っ飛ばす。


いつもツナのために必死だった。


ツナはそんな獄寺に、半分くらい迷惑ではあるが・・・・・・・・・・・・・・・・・
その気持ちを、熱意を、
くすぐったくも、ありがたく思っていた。


二人きりだと、その思いが更に増して。


「あっ、十代目、花火始まりますよ!!」
「え、う、うん!」


そんな彼の声にはっと空を見上げる。






ヒュウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ









バアン!!!!!













雲が少し残る夜空に、美しい華が咲いた。























二人だけだった

真夏の匂い

あの日の君の匂い

熱く焦げた
























バンッ
バババッ
ドォン!!
ぱらぱら・・・



頭を斜め上に向けて、ツナと獄寺は夢中になって花火に見入っていた。
場所が意外と近いらしく、ツナが今まで見たどの花火よりも巨大で、音も大きく感じた。

時折時間を挟んで次々打ちあげられる花火は、
日本人特有の、一種の懐かしさに似た感動を与えてくれる。

ツナも瞳を輝かせている。

「すごい・・・!花火って、こんなに大きかったんだ」
「・・・・・そう・・すね・・・・・・・・・」

花火の音で聞き取りづらかったが、獄寺はうっとりとして言ったようだった。


そういえば、日本の花火は初めてなんだっけ・・・・・


こちらを見ることもなく、ただただ花火を見上げる獄寺。
その表情がなぜか感傷的に感じて、ツナは何も言わずに花火に視線を戻した。


花火は次々上がっては、空中で球体の華を咲き誇る。
一瞬遅れの爆破音が、体の芯に響くようで、心地よい。



しばらく黙っていた獄寺が、口を開いた。

「花火が上がると、何だか心が安らぐ気がします」
「え・・・・・・・・・落ち着くの?」
「はい・・・・何となくですが」
「ふぅん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

外国育ちだとそうなのかななどと考えたツナだったが、
すぐにその訳を考えついて、小さく笑った。

「獄寺君、それもしかして、花火の音とダイナマイトの音が似てるからじゃないの」

獄寺はそう言われてはっとする。

「あ、そうか・・・・・・・・・・!さすが十代目っス」
「当たってた?」
「はい」

特に否定もしない獄寺に、じゃあ獄寺君は爆音で心安らぐのか・・・・と
ツナが胸中ひとりごちた。


それにしても、ダイナマイトと花火が似てるとは。
普通は結びつきようもない二つを思い浮かべて苦笑する。
ツナが獄寺に出会わなければ一生思いつきはしなかっただろう。


上空で次々散ってゆく花火を見上げる。



「あなたと花火を見ることが出来て、よかった」

獄寺がポツリとこぼしたセリフ。


ツナは、


唐突に。


自分の隣にいる男は花火に似ていると、思った。


「命に代えても」という言葉を思い出す。


この男はツナのためならなんだってする。
きっと、彼を守るためならば

 


花火のように砕け散ることもいとわないだろう。

 

 













































嫌だ。
ツナは思った。獄寺が自分のために、散ってゆくなど。

ひときわ大きな花火が上がり、夜空に混じって消える。

散ってほしくなどない。

「花火ってもったいないね」
「え」
「こんなにキレイなのにすぐ消えちゃうんだから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・十代目?」

心配そうに顔を覗き込む獄寺を、
意を決したように、ツナが見返す。

「獄寺君は、消えないでね」
「・・・・・・十代目・・・・・」
「俺なんかのために死んだりしないでね」

獄寺が顔をそらす。
いつもの、顔を近づけすぎた時のように。

「十代目・・・・・・・それは、無理です」
「・・・・・!!」

どうして、という言葉は出なかった。
鈍いツナでもわかっていた。獄寺は嘘をつかない。


彼の決心は揺るがない。


「俺は十代目に命を捧げたんです。あなたのために生きて、あなたのために死にたい」

わかってる。夜空に咲かない花火には意味がない。

「でも、でも、嬉しくないよ、そんなの」
「いいえ。そうさせてください。俺は、あなたがいるから存在するんです。先立たれたら・・・・」
「そんなこと言っちゃダメだよ。俺の幸せが獄寺君の幸せだって、言ってただろ!?」
「・・・・すみません。ここだけは譲れない」
「なんでさ!!?」

獄寺君がいなくなる。考えたくもなかった。


迷惑だけどやさしい。
怖いけど頼もしい。
ダメツナと呼ばれた俺を慕ってくれた。


獄寺の、花火を見上げる横顔に訴える。

「俺なんかに命賭けないでよ。俺にはそんな価値無いだろ」
「いいえ。俺にとってはあなたの命は何よりも重い」
「重くなんかないよ!俺より獄寺君のほうがよっぽど・・・・・・・・」
「ボンゴレファミリー十代目が、何を言うのです」
「マフィアになんて・・・俺は・・・・・・・!」

考えを変える気がないのはわかっている。
だが、自分に視線すら合わせようとしない獄寺に、
高ぶった感情を抑えきれない。

ツナは橋の上にペットボトルを置いた。
躊躇わずに手を伸ばし、獄寺の顔を自分の顔と無理矢理向き合わせる。


「聞いて、ちゃんと聞いて!!・・・・・・俺だって、獄寺君が死ぬの嫌なんだよ!!」


普段なら絶対こんなこと言えない。
獄寺の目がくっと細められる。何か言いたげだったが、激情は止まらなかった。


「獄寺君が俺のために死んだって嬉しくない!!変なこと言ってゴメン、でも俺だってこれは譲れないんだ!」


必死だった。




獄寺君がいなくなったら、



どうなってしまうだろう?



「沢田さん」

囁かれて我に返る。

咥内に広がる煙草の味。


唇に体温を感じる。キスを、されていた。

「ん、・・・・・」

ツナは声を上げようとしたが、獄寺の舌が自分のものに触れて、それどころではなくなった。
獄寺が逃げようとする頭を押さえつける。
怯えるツナをなだめるような、緩やかな舌の動き。

ツナもとうとう目を閉じる。


深い、深い口付けだった。




「・・・・っは・・・・・・あ・・・・」
「沢田さん」

名残惜しそうに唇を離すと、切なげな表情の獄寺は、
慣れているはずもないキスに困惑するツナに、尚も囁く。

「俺にはもったいないお言葉です。ですが、あなたがそう言うのなら・・・・・・・・・」


バアン!!!!!


視界の隅に花火が舞い散った。


「誓わせてください」
「何・・・・を・・・」

涙目のツナが問う。
ツナの後頭部に回した手もそのままに、獄寺が口を開く。

上目遣いに見上げてくる愛しい彼を、抱きしめたい衝動に駆られながら。


「俺はあなたと共に生きるために、この命を燃やそうと思うのです」



守って散るのではなく。

共に生きるのだと。


確かに獄寺はそう言った。

「本当?」
「あなたが望むのなら」


どこまでも自分を大切にするその男。
ツナは心底から、礼を言う。

「ありがとう!」

安心しきった、満面の笑み。
獄寺のどこかが、ぷつん、と切れた。

「十代目!!!一生幸せにします!!!」

がばっ!!

「うわああ!!?獄寺君ここ橋の上!!落ちる!落ちるうう!!!」

抱きつくどころか押し倒そうとした獄寺に、ツナは叫んだ。
置いておいたペットボトルが、川に落ちてぼちゃんと音を立てる。
真っ赤になって、獄寺がツナから離れた。

「・・・っは!!ももももうしわけございません!!!!!部下の分際で十代目に手を・・・・!!!」
「・・・・・・あーびっくりした・・・それにしても一生幸せにするって・・・・・・・」
「御気になさらないでくださいぃぃ!!!!」

夜の暗闇でも、獄寺の顔が紅潮しているのがツナにもわかった。
そういうツナも、既に真っ赤っかなのだが。

「・・・・さっきの、キスは」
「俺の・・・・・・・・・・・・・・・・正直な、気持ちです」
「そ・・・・それって」
「ああもう男獄寺隼人まだまだ理性が足りません!!ちょっくら川で頭冷やします!!!!」
「わーーーーーー!!!?飛び降り自殺かよ!!!!?」

なんだか自爆しそうな獄寺を必死に止める。

 


相変わらず花火は、夜空に映えていた。












 

 



























そろそろ花火もフィナーレという頃。

「十代目」
「何?」

落ち着きを取り戻した獄寺が、ツナに向かって言う。
真面目な表情にツナはどきりとした。

「これは、あくまで俺の意見なのですが」

視線は花火。
ツナが一度、獄寺に似ていると思った、真夏の華。



「花火は、砕け散るから、美しいと思うんです」




それはツナの「花火ってもったいないね」という言葉への返答なのか

それとも、ツナを守り続ける獄寺自身なのか



ツナは聞くことも出来ずに、

 

ただ夜空に散ってゆく花火を見上げていた。
























雲が千切れてゆく

絶え間なく響くその声と

夜を染める火の粉


 




消えないで

 










消えないで







 




 

 












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「花火」by SENTIMENTAL☆BUSから題名・歌詞一部抜粋引用

獄ツナ季節ネタ。原作でやったらどうしよう花火。
すみません。うん。大丈夫。自分でも意味わかりませんでした。
書きたいものがたくさんあるんで全部描いたらゴチャになります!(当たり前)
初のキスシーンですが、何かムードもへったくれもありませんね。
そのままR指定になりそうな所を何とか力ずくでシリアスに戻しました。よかった。
そしてどうしても会話がギャグになるのは宿命?ええー
キャラ違うし。特にツナ。よーし切腹の用意だ。

ここまで読んでくれた方、物凄い感謝しております!!!ありがとうございました!






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