「ああー、こんなとこに居たの獄寺君」
「・・・・・・十代目・・・!」
ドアの音と共にツナの声が聞こえ、獄寺は顔を上げた。
ツナは、グランドピアノが鎮座するその部屋・・・音楽室に足を踏み入れる。
獄寺は机の一つに腰掛けていた。
そこを慌てたように降りて、近づいてきた特別なその人に礼をする。
「何か御用ですか!?あ、野球野朗がまた何か・・・・・・!!?」
「またって何!!?いや、用とか別に無いんだけど、獄寺君の姿が見えなかったから・・・・・・・・」
「・・・・・・探しに来てくれたんスか?」
きょとんとした顔で、獄寺はツナを見返す。
その、5時間目の理科を丸々サボった部下に、ツナは困ったように頷く。
「うん・・・」
「か、感激っス!!十代目が俺のためにvvああなんか恐れ多くも嬉しすぎて・・・」
「獄寺君サボりはちょっと・・・・・・・・・・・・聞いてる?」
「はい!!それにしても十代目、何で俺がここにいると?」
獄寺の素朴な疑問に、ツナの表情が強張った。
一瞬視線を外し、少し考えて、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「えっと・・・獄寺君、前ピアノやってたって言ってたから・・・・・・・・何となく思いついて・・・」
「・・・・・・・・・ピアノ」
「ご、ごめんね!?ビアンキのせいで色々嫌な思い出あるのにそんな」
「お聴かせしましょうか」
「え」
呆けたような声が出る。
獄寺は薄く微笑んでいた。満面の笑みとはどことなく違う気のする、綺麗な笑みだった。
「・・・聴かせて」
その表情に、ツナは考えるまでもなく返事をする。
「ありがとうございます」
獄寺は静かに礼を言う。
獄寺自身、何に礼を言っているのか見当もつかないが、何だか満たされていくような気がした。
グランドピアノの蓋を開き、鍵盤に向き直る。
蓋を開けるのすら、何年ぶりだったろうか。
「俺クラシックとか全然聴かないからわかんないけど、いいの?」
「構いません」
ピアノの前に立つ獄寺。ツナがイスを持ってきて、その近くに座った。
それを見て、隼人は大切なことを思い出した。
「十代目」
「な、何?」
「俺、姉貴にクッキー食わされてから、発表会ではマトモな曲を弾けなくなったんです」
「・・・・そうなんだ」
「だから、この曲を聴いてもらうのは、あなたが初めてなんです」
6歳のあの日から、ほぼ7年越しの発表会。
たった一人の観客。
その一人の観客がツナであることが、獄寺にとって何よりも嬉しかった。
何もかもが、今この瞬間のためにあるような気さえしてくる。
ビアンキのクッキーで苦しんだことも、父に裏切りを感じたことも、大して意味の無かったそれからの数年も、
一番にあなたに聴かせるためにあったのだとしたら。
「俺はあなたのために生きていたんだ」
「え、何?」
「いえ・・・。じゃ、弾きますね」
ピアノの前で一礼をして、イスに座る。
小さかったあの頃、クッキーにのた打ち回る傍ら、ずっと磨いていた曲があった。
一生懸命に練習したその曲は、一つも淀む事無く再現される。
あの頃に比べごつごつしている獄寺の指。あの頃のように鍵盤の上をすべり、美しい旋律を生む。
何度も何度も練習した。
何年もの間、その曲を指は忘れていなかったのだ。
この日をずっと待っていた。
いつの日か、優しい誰かが、隼人が苦しんでいることに気づき、
初めて彼の本当の音色を聴いてくれる。
そう信じていた。
休み時間が終わりそうになる。
ツナはそれさえも忘れて。
獄寺の奏でるクラシックに聞き入っている。
終
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「クラシック」byJUDY AND MARYよりタイトルを拝借。
ここまで読んでいただいた方に感謝いたします!
だぁーもう捏造甚だしい!!小さい頃の獄の話は完全に妄想1000パーセントです。標的3っぽいところも同様。
暗いのに長いです。2番目辺りで獄の無気力感とかなげやり感とか出したかったんですけど出ず仕舞い・・・
偽寺や・・・!こんなん獄寺じゃない・・・!!!ニセモノだ・・・・!!!
小さい頃の獄寺を書いていたらオチのピアノの話が書きたくなり、
書いてみて味気ないので2番目を丸々書き足しました。明らかに邪魔ですがもったいないので上げときます。
色々総合的にすいません;;
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