それは契りの盃ともいうべきか。
天井から降り注ぐ蛍光灯の光に照らされて、それぞれのワイングラスが色めく。

「これまでの、そしてこれからの同盟に・・・・・・乾杯」

乾いた声とともに3つのグラスが互いにキスをした。















アルコール

 
















ひっそりと道の角に看板を出している、小さなバー。
小さいながらに酒の品揃えがよく、高級志向な店である。
特にワイン通ならば、壁一面に並ぶさまざまな銘柄の瓶に感嘆の声を漏らすこと請け合いであろう。
だが、こんな普通といえば普通の店で、
マフィアのボスが酒を酌み交わしているなど誰が想像できようか。

「ディーノさん、結構飲みますねー」
「まあ酒は強い方だからな。ドン・ボヴィーノもどうぞ」
「すまないね」

ボンゴレファミリーのボスがグラスを揺らして笑い、
キャッバローネファミリーのボスが笑顔でワインを継ぎ足し、
ボヴィーノファミリーのボスが快く受け取りぐっと仰ぐ。

今夜は同盟ファミリー内でのささやかな飲み会。
店は貸切にしているが、大々的にせず当人と数人の護衛だけで行っていて。
落ち着いた感じの赤で統一された長椅子に揃って座り、各々が楽しそうに飲んでいる。

「良いんですかボス、明日の仕事は・・・」
「大丈夫さ、酔わない程度で楽しむから」

護衛であるロマーリオの心配をよそにディーノは中々のペースでグラスを空にしていた。
ツナやボヴィーノボスも楽しそうに飲み交わしている。
大人の世界。
ボヴィーノ側の護衛であるランボは目の前の光景を、とてもきらびやかなものを見るように眺めていた。
そしてなにより、なにより。

「ボンゴレ10代目がこんなに近くに・・・・!」
「大げさだって。何うるんでんだよランボ〜〜〜」

感動してうるうるしているランボに、ツナは冗談のように軽く手を振った。
子供時代はランボはツナにべったりだったが、
大人になるにつれ合う回数も少なくなって。
さしずめロミオとジュリエットというか、そんな日々が続いていたのだ。
この酒の席に同席できたのは運命かもしれない。
ランボは本気でそう思った。

「オレは本当に幸せです、ボンゴレ・・・貴方が手の届くところにいるだけで」

飲んでいるディーノや自分のボスに構わず、ランボはツナの席の隣に行くと。
酔いの赤みも現れていない手をとり、
そっと唇を落とす。

「ランボ・・・・・・」
「いいかアホ牛、テメェの首にオレの手が届くことも忘れんじゃねぇ!!」

背後から聞こえた声、同時にランボの首にごつい手がかかった。

ぎうっ!!

「ぐぇぁ!?」
「うわあああランボから車に轢かれたカエルような声が!!!?」
「あ、10代目はどうぞお気になさらずに。今日の酒のつまみは牛の丸焼きですよv」
「怖いよ獄寺君それつまみじゃないし!!!手ぇ離せッ!!」

ツナの護衛である獄寺がイスの後ろに立って奇襲をかけたのである。
唐突に首を絞めるのは獄寺の必殺技だ。
慌てたツナに命じられて獄寺は素直に手を離す。

「が・ま・ん・・・・・うああああああああ」
「あーよしよし、ホラ泣くなよ、ランボ」
「ランボてめぇ泣きやまねぇと芯棒ブッ刺してあぶり焼くぞコラ」
「うわあああああああああああああああああああああああああああ!」
「だああああああ獄寺君!」
「・・・すみません」

ツナに抱かれるように泣きついたランボに、獄寺はまたカチンときたらしい。
一方のランボは久しぶりのツナの腕が温かく嬉しいながら、
いつまでも子供な自分にため息が出そうな気分だ。

「(せっかくボンゴレ10代目に会えたのに・・・・・・)」

今日の舞台は酒屋、今は大人の時間。
ランボはツナの胸から顔を上げた。
泣きつくんじゃなくて、抱きしめられるんじゃなくて。

「オレの方から・・・・・」
「あ、ランボ。泣きやんだ?」
「ボンゴレ10代目、キスしていいですか?」
「え」

ツナが困惑気味の返事をした。
その時。

ごいんっ!!!

「い゛っ・・・・・!!?」
「あ〜〜〜!悪ィ!!大丈夫かランボ?」

ランボの脳天にワインボトルが直撃した。
哀れなランボの視界には花火があがっている。
ツナが顔を上げると、獄寺の隣にワインボトルを大量に抱えた山本が立っていて。
どうやらそのうちの一本が落下し、その落下地点にランボの頭があったらしい。

「うううううううううう」
「わーーッ!?大丈夫かランボ!?あ、ワイン割れなくてよかった」
「そっちですかボンゴレぇ・・・・・・・!!」
「いいタイミングだったぜ、山本」
「何言ってんだ獄寺、わざとじゃねーって!あらら・・・コブできてねーか?ランボ」
「う・・・・・・?」

優しげな笑顔でランボの顔を山本が覗き込む。
ランボが涙目で顔を上げると、笑顔の山本と目が合った。
ツナの目が2人から離れた瞬間、
声には出さず、笑った顔のまま、唇の動きだけで山本がランボに言う。


ざけんなよ?


「な・・・なんかランボ黙っちゃった上に怯えてるっぽいんだけど・・・・」
「平気だってさ」
「もー・・・山本もワイン持ちきれないほど抱えるなよー」
「わりーわりー。それよりワイン色々あるみてーだぜ?ツナもいっぱい飲めよ!」

ボトルをいくつも持った山本がツナの隣に座る。
ちなみにツナの護衛は1人のはずだったのだが、山本と獄寺共に譲らなかったのでどっちもつれてきたらしい。

「オレあんまり酒入れるなってリボーンに言われてるんだけどなー・・・・・」

渋るツナ。
酒の魅力も分かってくるはずの年頃なのだが、酒に弱い体質らしい。
おかげでツナ自身は酔っている間のことをあまり覚えていないのだ。
リボーンの言うことに間違いはない。だから酒は酔わない程度に控えた方がいいのだが・・・・

「ちょっとくらいへーきですよ、10代目!」
「ツナ、ボスなんだから酒くらいちゃんと飲めよ?」

獄寺とディーノが明るく誘う。

「・・・・ま、もーちょっとなら大丈夫かな」
「無礼講って事で!」

周りの連中に乗せられるように、ツナがぐいっと酒を飲み干すのを、
ランボは寂しそうな視線で見ていた。


































ランボが過ごした日本での数年間で、こんな言葉を聞いたことがある。
酒は飲めども飲まれるな。
この場では、たぶん・・・・・・2人の人間が当てはまるだろう。
そのうちのひとり、長椅子をベッドのようにしてぐったり横たわる己のボスに、
かいがいしく水を持ってきたランボが、心配そうに呟く。

「ボス、大丈夫ですか?」
「ああ・・・すまんな、まだ起きれそうに無い・・・・・・」

どうにかして言葉を搾り出そうと努力しているボス。
酔いが回りすぎて気分がすぐれないというのに。
この人がきちんと気遣いをできるのがランボは少し嬉しかった。

「お前はまだ15・・・こうなってしまったらいけないから・・・・ランボ、酒はやめておけ・・・」
「分かってますよ。安心してください、ボス」

しっかりした口調で言ってボスの背中に自分の上着をかけてやる。
彼のライバルであるリボーンが1歳未満ですでに酒の味を知っていたことは忘れる事にした。
そう、今この場にいない人間のことを考えてもどうにもならない。
今の問題はもうひとりの酒に飲まれた男のことだ。

「どーだ?この店ワインだけじゃないらしいぜー」
「ほんとら〜〜〜、このジュースもおいしいね・・・なにー?かくてる?ちゅーはい?」
「おっ、ツナ、ちゅーするか?」
「もーーーディーノさんてば親父ギャグ〜〜〜v」
「10代目vこっちの酒もどーッスか?」

完全に酔っ払っているツナ。
その周りは酔ってはいないものの、ツナを数人で取り巻いて、飲ませて酔わせて触って・・・やりたい放題の連中だ。
マトモなのは一応ツナに絡まずディーノの隣に座ってワインを飲み比べているロマリーオくらいなものである。
どうしたものかと見ていたら、ツナが普段は見せないような満面の笑みで手を振ってきた。

「ランボも飲もおよ〜〜〜〜!」
「せっかくですが遠慮します、オレはまだ未成年ですし・・・・」
「なにいってんろー、リボーンなんか生後ちょっとでもう飲んでらよー?」

きゃっきゃと笑うツナ。普段の控えめで苦労性な人格とは違い、甘えた態度がどこか幼さを感じさせる。
小動物のような、子供のようなしぐさが、ぶっちゃけめちゃくちゃ可愛いのだ。
その上。

「ツナって酒入ると何か色っぺーかも」
「んなことないよー・・・オレ見て色っぽいとかって山本変〜〜〜」
「間違っちゃいないと思いますよ、10代目」
「獄寺君までー」

そう、原因は赤らんだ顔か、とろんとした目か、暑くて外したシャツのボタンか分からないが。
妙に色っぽい。
これは由々しき問題だ。何か起こらないうちにと、ランボは諌めの言葉を投げる。

「ボンゴレ、そろそろ・・・」
「なに〜〜〜?」
「10代目、あっつくねースか?上着お預かりしますよ」
「あ、ありがと獄寺君ーー」
「ちょっと待った、獄寺、ツナ。どーせ脱ぐなら楽しくいこーぜ」
「ぬぐなりゃ?」

周りはランボの話など1ミリも聞いちゃいない。
山本の提案に、ずいぶん飲んでるはずなのに少しも顔色の変わらないディーノが。
ああ、というリアクションをとる。

「それ知ってるぜ。ジャッポーネに伝わる宴会秘奥義・野球拳!」
「宴会秘奥義!?ってキャッバローネ、それ上着どころか全部脱ぐんじゃ・・・・・・」
「オイこらディーノお前10代目を脱がせようという魂胆か!?」

慌てて止めようとするランボ。
獄寺も目上であるはずのディーノに柄の悪い注意をはさんだ。
酒を飲みながらもツナの肌を護ろうとするあたり、酒は結構強いのかもしれない。
鼻血を出しつつ言っても説得力などありゃしないのだが。
そんな制止の声も、酒で飛んでるツナには届かないらしかった。

「よーっし、山本ー!やきゅーけん勝負ら〜〜〜!」
「うけてたつぜ、ボス」
「やるんですかッ!!!」

ツナと山本が対峙するように立ち上がる。
沸き起こる手拍子。
もはや忘年会ノリだ。
ファミリーのボスが野球拳・・・・・・・
なんだか自分はここにいてはいけないのではと思い始める、唯一素面のランボだった。













 



「「ヨヨイのヨイッ!!!」」



店はやんややんやの大騒ぎ。小粋な店が加速度的に宴会場になってゆく。
とうとう獄寺にも酔いが回り、もうツナしか見えてない。
飲みすぎてロマーリオが潰れたせいで、ディーノは先程の面影も無いほど酔っ払っている。
どうやら酒に強いのは部下がいるときだけのようだ。
これを止められるのは自分だけかもしれない・・・・・・・
ランボは追い詰められたような使命感を帯び始めていた。

「やきゅ〜〜す〜るな〜らこ〜〜ゆ〜〜ぐ〜あいにし〜やしゃ〜んせ〜〜〜〜〜♪」
「あの・・・・・・・・」
「(中略)アウトッ!!」
「セーフッ!!!」
「ちょっと・・・・・・・・」
「「ヨヨイのヨイッ!!!」」
「待てーーーーーーーーーーーー!!!?」

ランボの絶叫も虚しく響き、
テーブルの上に2人の手がバッと出される。
握りこぶしがふたつ。つまりグーとグーのあいこ。

「「ヨヨイのヨイッ!!」」
「・・・・が・ま・ん・・・・・・・・・・・・・・・・」

半泣きのランボ。今度の手は・・・・・チョキとパー。

「はゃ〜〜〜〜、また負けちったー、やきゅーけん強いな山本は〜〜〜」
「まー、野球やってたからな☆」
「野球やってたのかんけーねーぞ山本ォ!!!」
「10代目〜〜〜〜〜〜vvvセクシーーー!!」

野球拳は異様なまでの盛り上がりを生んだ。
やたらとジャンケンが強い山本は現在一枚ロストで上着を脱いだだけ、
一方のツナは残すところYシャツと指輪と下着だけ・・・・・・・・・・・・
不自然に上がる動悸を抑えつつ、ランボは進み出る。

「えへへv・・・・・あ、どしたのランボ〜〜?」
「ボンゴレ、その格好は非常に嬉しいのですが・・・・貴方はファミリーのボスです、そろそろ慎んでは・・・・」
「かってーなーランボ!」
「いーじゃねーか無礼講無礼講!」
「キャッバローネ・・・・・山本さん・・・・・・・」

赤い顔でやたらとハイテンションのディーノと、
一番飲んでるはずなのに未だに素面の・・・ノリが酔ってるのとあまり変わらないが・・・山本が明るく言う。
ランボが小さくなって怯えながら、でも、と切り出そうとしたところで、
ツナがなんだか頷いた。

「そだね、ここでやめにひよっかー」
「!!ボンゴレ10代・・・・」
「次は王様げーーーーむっ!!」
「めえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」
「王様の言うことはーーーーーッ!?」
「「「ぜったーーーーい!!!」」」
「何なんですかその異様なノリは!!!?」

そろそろげっそりしてきたランボ。
目に涙を浮かべて叫んだりしていたが、テンションは上がってゆく一方。

「(久しぶりにボンゴレ10代目に会えたのに・・・・)」

10年前の5分間の愛では伝えきれないことを。
今度こそ、無限の時間が許されると思っていたのに。
運命は酒に負けてしまったのか。

「ランボ!ランボもやろーよおーさまげーむ!」
「ボンゴレ、10代目・・・・」

ぐったり座ってたランボの膝に馬乗りになり、ツナが誘い文句を言う。
先程触れたときよりも熱い体温。
また目が、潤んだ。

キスしていいですか?

「いーよ、キスしても」
「・・・・・はい?」
「ランボ、さっきからずーっとつまんなそーにしてるんらもんな〜〜〜・・・酔っ払い嫌い?オレ嫌い?」
「は、いえ、そんなこと」

あたふた答えるランボに、ツナは妖艶な笑みを浮かべてみせる。

「オレはランボが大好きだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ボンゴレ・・・」

ランボは決心めいた顔でツナを見返した。

「オレも、ですよ」

そっと目を閉じて、
ふわりと動いたツナの唇に、うっとりと重ね合わせるようにしてくちづける。

「ん・・・・・・・」
「・・・・!!!!!!?」

次の瞬間、口内に流れ込んできた液体にランボは声にならない声を上げた。
熱い。焼ける。独特のにおいとフルーツの味を口の中から感じ、目を見開く。
ボンゴレボスの口移しで流れ込んでくるのは、
酒?
そう判断したころにはランボの意識はぐるんと回っていた。

「・・・びっくりした?ランボ!お酒飲まないのもったいらいよ〜〜〜〜〜〜」
「・・・・・・・・ツナ」
「10代目ーーー、割り箸の用意できましたぁーー!!」
「ありがと獄寺君ー!さ、ランボもやろ〜〜」
「ツナ!!」
「へ?」

ボンゴレとか10代目とかじゃなく、ツナと言ったランボ。
ツナの服をぎゅっと捕まえ、ぐしゅ、と顔をゆがませ、

「ランボさん寂しかったんだからなーーーーーー!!」
「ひゃーーーーー!?」

一気にツナの胸板にダイブし泣きついてきた。

「なーにーしーてーやがるっ!!」
「ランボさんいい子だから我慢してたんだもんね・・・でも・・・ツナーーーー!!」
「重い〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「もしかして、ランボって酒飲むと退行するのか?」

引き剥がそうとする獄寺と、ツナにしがみつくランボの格闘を見ながら、
まだ正常な判断力がある山本は冷静に分析してみせる。
答えてくれそうなボヴィーノのボスは、とうの昔に寝入っていたが。

「なんだか楽しそうなことになってるなー!まあいいや皆割り箸引いて」
「は〜〜〜い!どーでもいいけどよく割り箸あったにゃーイタリアなのに〜〜〜〜」
「あ、オレ王様ー」
「マジで?じゃー王様ゲームはじめっかー」
「ゲーム!?ランボさんもやりたい!!」


「王様の言うことはーーーーーッ!?」
「「「「「ぜったーーーーい!!!」」」」

上がる歓声。
まだまだ宴もたけなわ、というわけにはいかないようである。













 

 





 

 




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53535HITキリリク「大人ラン→ツナギャグ」でしたっ!
沼野睡蓮様、めっちゃありがとうございました!!
またもやアホばっかで申し訳ない気持ちでいっぱいです・・・・;
一応10年後想定してますが今とほとんど違いがない;
中途&半端(何)
ランツナになってたらいいなあと希望をこめて(希望かよ)
もらっていただけたらという希望もこめて!!リク超感謝です!


 

 

 

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